ひとつ前に読んだ「銀の鍵」は、断片的な夢をそのまま作品化したものだったが、本書は夢の世界を再構成して、夢幻境をめぐる長編の冒険活劇に仕立てている
ラブクラフトには珍しく、ホラー的な要素の乏しい、ファンタジー作品だ
三蔵法師と孫悟空たちが、異形の怪物たちと戦いながら天竺をめざす「西遊記」を連想させる
作者自身はこの作品を手慰みの習作として扱い、生前は公表しなかった
左の表紙にある奇妙な像が、縄文時代の遮光器土偶に似ているのは、漫画家さんのお遊びだろうか
(^_^;)
ひとつ前に読んだ「銀の鍵」は、断片的な夢をそのまま作品化したものだったが、本書は夢の世界を再構成して、夢幻境をめぐる長編の冒険活劇に仕立てている
ラブクラフトには珍しく、ホラー的な要素の乏しい、ファンタジー作品だ
三蔵法師と孫悟空たちが、異形の怪物たちと戦いながら天竺をめざす「西遊記」を連想させる
作者自身はこの作品を手慰みの習作として扱い、生前は公表しなかった
左の表紙にある奇妙な像が、縄文時代の遮光器土偶に似ているのは、漫画家さんのお遊びだろうか
(^_^;)
本書に収められた5つの短編は、ラブクラフトが夢に見た内容を、ほぼそのまま作品にしている
作中には、ラブクラフトの分身であるランドルフ・カーターが、夢の中の主人公として登場する
私はまだ体験したことが無いのだが、世の中には明晰夢というものがあるらしい
明晰夢とは、睡眠中にみる夢のうち、自分で夢であると自覚しながら見ている夢のこと
明晰夢の経験者はしばしば、夢の状況を自分の思い通りに変化させられると語っている
そんなことが可能なら、まさに「夢のような世界」を自由に楽しむことが可能になる訳で、人生の楽しさや奥深さが何倍にも膨らむように思う
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コズミックホラー(宇宙的恐怖)と呼ばれているラブクラフト作品群の中でも、特に宇宙をテーマとする色彩が強い作品
地球防衛軍こそ登場しませんが、宇宙人が地球を侵略するというストーリーで、SF小説の先駆けです
人間の脳だけを取り出して宇宙旅行をするという作中のアイデアは、1世紀前の作品としては斬新です
人類は半世紀前(1969)に月面上に降り立ちました
当時、次は火星だ太陽系外だとか騒いだけれども、その後に月以外の星に人類が行くことは無かったし、月にすら行かなくなった
過酷な宇宙環境と宇宙の広大さに対して、人間の肉体は余りにも脆くて弱く、寿命は短い
日本の小惑星探査機「はやぶさ」のように、高性能の観測機器を遠い宇宙に飛ばし、収集したデータや試料を回収するのが、地球周回以外の宇宙開発の主流になっている
脳だけ取り出す技術は現在医学でも無理だが、人間の感覚機能を代行する観測機器を宇宙に飛ばすというのは、それに近い方法と言えそうだ
さらに話は飛ぶが、人間が毎日のように睡眠中に見ている夢は、時空間を超越しているので、脳だけが宇宙旅行をしたり、タイムマシンに乗ったりしているようなものかもしれない
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「ニャルラトホテプ」とは、ラブクラフトによるクトゥルフ神話に登場する邪神
「ナイアルラトホテップ」など、表記にはいろいろブレがある
私がこの名に初めて出会ったのは、一時流行したファイル共有ソフト「ウィニー」の応用ソフトの名前だ
今は違法になったウィニーだが、当時は合法で、互いに手持ちのソフトやコンテンツを自由に交換できる便利なソフトとして一世を風靡した
ウィニー開発者の47氏(本名金子勇氏)は、「著作権法違反幇助」という罪名で逮捕されたが、のちに無罪が確定した
ウィニーは、自分がファイルを1つアップしたら、ネットからファイル1本ダウン出来るという、一種の相互扶助的な仕組みになっていた
ナイアルラトホテップという応用ソフトは、この1対1交換の原理を破るもので、自分は1本もアップせずに、何本でもウィニーネットからファイルをダウン出来るという非常に都合の良い代物で、これが普及すると誰もアップする人がいなくなり、ウィニーのファイル交換の世界が崩壊する
もちろん、クトゥルフ神話とは何の関係も無い
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ラヴクラフトにとってプロヴィデンスは最も落ち着く場所だったようで、46年の短い生涯のほとんどをここで過ごし、独特のクトゥルフ神話の世界を紡いだ
ラヴクラフトはプロヴィデンスに住む伯母に宛てた手紙の中で
「現実世界を打ち捨てて、古びた場所に引き篭もり、読書や書き物をしたり、風変わりな場所や歴史の残る場所を訪ねたりして、静かに暮らしたい」
と書いて、過ぎ去った時代への偏愛や、異邦への憧憬を表している
日本で言えば出家隠棲のような生き方だが、彼が生きた時代のアメリカは、第一次大戦や世界大恐慌で落ち着かなく、彼は英国に似た落ち着きのあるプロヴィデンスを愛した
彼の墓には「私はプロヴィデンスである」と記されている
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▲現在のプロヴィデンスの街並み
ラブクラフトの初期作品
「無名都市」
「ダゴン」
「魔宴」
「神殿」
を収録している
狂える詩人アルハザードによる魔道書「ネクロノミコン」が登場します
現在のヨーロッパが世界の先進エリアの座を確実にしたのは18世紀の産業革命以降なので、それまではオリエント(エジプトやメソポタミア)の巨大帝国がヨーロッパ人にとっての恐怖の的、トラウマだった
それよりはるか昔に栄えた爬虫類的な生物の文明への恐怖が、一連の神話のテーマです
作品が書かれたのは今からほぼ1世紀前
当時の日本で発生した関東大震災(1923年)は、世界に大々的に伝えられ、文明崩壊事件として、ラブクラフトにも強い影響を与えたとされています
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今回、インスマウス、ダンウィッチ、そして本作と、ラブクラフトの代表作を詳しい解説文付きのマンガで読んでいるのは、以前に原作の小説(もちろん翻訳)を読んでいるからだ
あの底知れぬ「コズミック・ホラー(宇宙的恐怖)」の世界を、どのように具象化(マンガ化)しているかに興味があった
元首相の鳩山由紀夫が「日本列島は日本人だけのものではない」などと馬鹿げた発言をして、多くの日本人の憤激と失笑を買ったが、「地球は人類だけのものではない」という不安と恐怖が、コズミック・ホラーの基本テーマになっている
当然、小説は文章だから、その恐怖の対象をあいまいにボカして表現できるけれども、マンガでは明瞭な絵にしなければならないので、マンガ家は大変だ
作品とイマジネーションの比率が、小説なら3:7のところが、マンガなら7:3くらいの感じだろうか

特に本作「クトゥルフの呼び声」は2人のマンガ家が個別に作品化しているので、読み比べる楽しみもあった
私は右脳やマズローの至高体験との関連で、コリン・ウイルソン(→)に興味があるのだが、彼もラブクラフトに並々ならぬ関心を示し、「賢者の石」などの作品を書いてクトゥルフ神話の世界に参加している
「ウルトラQ」を通じて日本の特撮界に影響を与えたラブクラフトだが、その後さらに現代のPCゲームの世界観などにも多大な影響を及ぼしているので、「大人の知的お遊びの世界」であるクトゥルフ神話は、今も拡大を続けている
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インスマウスと並ぶラブクラフトの代表作
文章ではアイマイに表現できる不気味な怪物も、マンガとなると具象的に表現するしかないので、漫画家の苦労は並大抵ではない
漫画とは別にラブクラフトに関する文章説明が詳しく、ポーからスティーブン・キングに至る米国ホラーの伝統の中に、ラブクラフトを位置付けている
日本でラブクラフトを最初に紹介したのは江戸川乱歩のようだが、妖怪マンガの水木しげる、特撮映画の「ウルトラQ」との関連が興味深い
小泉八雲の「怪談」をラブクラフトが読んでいた可能性もあり、日本怪談の影響があったとすると、浮世絵が印象派に与えた影響のようで面白い
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クトゥルフ神話の創始者であるラブクラフトの紹介をしながら、彼の代表作を漫画化している
日本の怪談は、四谷怪談のお岩など、恨みを持って死んだ人物が化けて出るといった類の話が多い
化けて出るのは荒唐無稽としても、化けて出た人物は身近な良く知っている人物が多く、その意味で日常的な怪談と言える
仮にキツネやタヌキが化けたとしても、これらは微妙に擬人化されていて、異形感に乏しい
ラブクラフトの描く怪談は、これとはまったく別で、自分とはまったく異なる異種の存在が登場して、その存在に対する激しい嫌悪感のようなものが恐怖の背景にある
白人が初めて黒人を見た時など、顔かたちの違いや皮膚の色などから、これに近いごく自然な嫌悪感情が起こり、それが差別意識に転化したのではないかとも思う
ラブクラフトは1890年、米国東海岸で生まれ、無名のまま46歳で夭逝した天才作家
彼の作品から影響を受けた後世の作家群によって、その作品世界は「クトゥルフ神話」と呼ばれるようになり、多くのファンを得ている
もちろん、日本神話やギリシャ神話とは異なり、歴史的な背景を一切持たない、完全に人工的な空想世界である
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「近頃の旅ガイドは、グルメ本みたいで詰まらない」と言う文豪・松本清張が、自ら旅ガイドを作った
京都の名所旧跡40か所を選び、友人の歴史学者・樋口清之の協力を得ているので、歴史的な背景説明が豊富だ
清張自身も古代史に造詣が深いので、古代史への言及も多い
第二次大戦で日本の大都市のほとんどが空襲で壊滅し、現在あるのは戦後の街であるのに対して、京都には平安時代から続く永い歴史が、現在の大都市の中に生きている
観光化された、俗化された、京都人は閉鎖的で意地悪だなどという京都批判は多いが、やはり京都の魅力は捨て難い
京都には何度も旅しているので主な名所は行き尽くした気分でいたが、この本を読んで京都は奥が深く、まだまだ楽しめそうだと感じた
幸か不幸か、今はコロナで外国人観光客が激減し、どこの名所も空いているという
京都の紅葉の季節は11月中旬から12月上旬と言われているので、何となく落ち着かない
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