ルネサンス

死について モンテーニュ「エセー」

35262332

▲ミシェル・エケム・ド・モンテーニュ(Michel Eyquem de Montaigne)

 

昨日ジョブズの最後の言葉から死について書いたので、そのつづきを書く

juken_sleep_inemuri_man

大学受験のころ、英文解釈の英文に下のような文章があった

我々の多くは、100年前にはこの世に存在していなかった

我々の多くは、100年後にはこの世に存在していないだろう

ではなぜ、前半を悲しまず、後半だけを悲しむのか?

当たり前じゃないかと感じる人も多いかもしれないが、私にはなぜか心に刺さり、記憶に残って長く気になっていたが、その時は誰の文章なのか分からなかった

それから20年以上たったある日、読書をしていたら、その文章にぶつかった

16世紀ルネサンス期のフランスの哲学者モンテーニュの言葉で、彼の代表作「エセーの中の文章だった

france

彼はワインの産地で有名なフランス南西部の中心都市ボルドー(→)の近くの、モンテーニュ村の貴族の息子だった

彼の家が支配している村なので、彼の名前と同じ村名になっている

さほど大貴族と言うほどではなかったようだが、フランス革命より2世紀以上も前のフランス貴族の生活は、非常にぜいたくなものだった

彼がまだ幼いころ、専門の目覚まし楽団がいて、目覚めの音楽を毎朝演奏していた

目覚ましベルのような荒々しい音で目覚めると、脳の発育に良くないと親が考えたようだ

最初はごく静かな音楽から始め、彼が目覚めるまで少しずつ音量を上げ、彼が目覚めてからもしばらく演奏を続ける

まさにアンシャンレジーム期の、貴族の優雅さの極致のような生活だ

現在の超高級ホテルで、このようなサービスを提供したら面白いと思うのだが、まだ眠っている部屋に楽団が入って来るのを嫌がる人も多かろう

彼の父親は息子の教育に熱心な教育パパだったようで、家庭教師をやとって彼に当時の学問教養を広く身につけさせた

300px-BL_Add._Ms._37777

当時すでにラテン語は日常語ではなかったが、彼の父は家庭教師にフランス語の使用を禁じ、ラテン語だけで彼を教育した

当時の学問教養は、ほぼすべてラテン語で書かれていたので、そのための配慮だった

ラテン語の聖書→   

おかげで彼は、ラテン語をフランス語と同様に、母国語としてあやつれるようになった

彼は成長して裁判官になり、ボルドー高等裁判所(パルルマン)で働いた

しかし彼は裁判官の仕事に飽き(貴族は飽き易い)、37歳の時に退職して故郷のモンテーニュ村に帰り、屋敷の中に書庫を兼ねた読書室(librairieを設けて読書生活に入った

 

35262333

▲モンテーニュの読書室(librairie)

天井の梁(はり)に、古典文献からとった格言名言が書かれている

35262334

 

彼の読書室はモンテーニュ村に現存している

一度尋ねてみたいと思っているのだが、コロナのせいで延び延びになっている

右の写真(→)は、モンテーニュの屋敷の片隅にある塔で、この3階に彼の読書室がある

彼が生きた時代は16世紀の後半で、日本で言えば戦国時代、織田信長の生きた時代と重なる

今より平均寿命が短かったとはいえ、37歳でご隠居さんのような生活に入るのは、かなり早かったはずだ

ただ、当時の貴族は生まれてから死ぬまでずっとご隠居さんみたいな生活の人もいたので、特に問題はなかったようだ

それからの彼は、モンテーニュ村の領地管理という必要最低限の雑務(ビジネス)以外は、この読書室にこもってギリシャ、ローマの古典を広く渉猟(しょうりょう)し、その合間に「エセー」という本を書いた

当時のフランスは宗教戦争のまっただ中で、カトリック勢力とプロテスタント勢力が、血で血を洗うような抗争を続けていた

時には彼の屋敷に暴徒がなだれこむような事件も発生しているが、彼は穏健な思想だったので、カトリックとプロテスタントの両派から信頼されており、のちに一時ボルドー市長をつとめて両派の調整もしている

彼はそんな両派の抗争からは距離を置いて、読書室での静かな読書と執筆の生活を続けた

まあ、働く必要のない貴族だからできた生活と言えばその通り

だが現在の平和で自由で豊かな日本で「適度なレベルのお金(some money)」があったら、誰でもその気になれば実現可能な生活かもしれない

彼はカトリック教徒だったが、「エセー」には宗教的記述が乏しく、この時代の人としては驚くほど合理精神に貫かれている

武人と文人という違いはあるが、合理精神のカタマリのような信長とモンテーニュが出会っていたら面白かったのではないかと思う(モンテーニュは信長より1歳年上)

彼はラテン語の達人だったが、「エセー」は日常語のフランス語で書いた

Aleksander_Lesser_Henryk_Walezy

そのせいか広く読まれて、ちょっとしたベストセラーになった

当時のフランス国王とも親しく、国王が彼の屋敷に泊まりに来て夜遅くまで語り明かしたり、彼がパリまで遊びに行って国王と会ったりもしていた

フランス国王アンリ3世→   

モンテーニュは、国王アンリ3世の「侍従」という立場だったが、常に近くにいて臣従していた訳ではない

国王のアドバイザーやコンサルタントのような立場だったと思われる

書名の「エセー」は、エッセイ(随筆)の語源となっており、もともとは「試み」や「企て」という意味

彼は自分という実験台を通して、散文形式で率直に思いつくままに、人間という存在を描写してみようと「試み」た

「エセー」は現在、日本語訳されて岩波文庫にも入っており、全6巻2224頁という大部の作品だが、体系もストーリーもなく、思いつくままのバラバラなテーマで書かれた本なので最初から通して読む必要はなく、好きな所から読み始めても楽しめる

だから夜眠る前に「エセー」を開き、適当なページから眠くなるまで読むというのを習慣にしている人も多く、私もその一人だ

冒頭に「ではなぜ、前半を悲しまず、後半だけを悲しむのか?」と書いたが、これだけを読むと唐突な感じで納得できる人は少ないと思う

だが、彼の「エセー」に読み親しんでいると、この考え方(哲学)が心に染み込んできて、死が余り怖くなくなるような気がするのだ

(^_^;)

 

読書 魔女とカルトのドイツ史

41WS0WYEEDL._SX286_BO1,204,203,200_

イタリアでルネサンスの文化が花開いていたころ、多少のズレはあるが、ドイツ(神聖ローマ帝国)では、宗教改革と魔女狩りが「花盛り」であった

生真面目で律儀、仕事は正確なんだけど、なんとなく余裕がなく、陰鬱で、不機嫌そう、というようなマイナスイメージも付きまとう

そして20世紀、ヒトラーが先頭に立って、派手にやらかしてくれた

とにかく、ドイツ人は何かが違う!

日本も一時は組んだし、明治の日本はお手本にしたこともあるけど、この何かが違う感じは何だろう?

これをドイツにおけるカルト集団の歴史の中で解き明かしている

ひと言で言えば、カルトにハマり易い国民性、民族性

その背景には、合理的な表層文化の裏に潜む、非合理主義の基層文化、ドロドロしたデモーニッシュな心理、キリスト教文化に抑圧されたゲルマン精神

社会が大変動して、ドイツ人が強いイライラに陥ると、これらがまた噴き出してくるかもしれないよ

((((;゚д゚))))

 

読書 ルネサンスの肉体観

715DWvZLGyL

著者は、1870年生まれのドイツ人で、ルネサンス以降の風俗の歴史史料を、コツコツと集めて集大成(日本語版で全9巻)している

日本にも在野の歴史家として、趣味で郷土史などをコツコツ研究している人がいるけど、それをもっと徹底した感じ

風俗と言っても、風俗産業の歴史ではない

性モラル、恋愛、結婚、売春、社交界、肉体観、ファッションなど、社会風俗全般の歴史だ

社会風俗は、歴史上の重大事件の背景として目立たないが、人間の生活の歴史そのものである

著者は、それぞれの時代の経済状況が社会風俗を規定するという、唯物史観のようなことを言っている

本書はヒトラー政権で、禁書目録の一番に挙げられた

中世からルネサンスにかけて、裸になることを余り恥ずかしいと感じなかったようだ

国王などの重要人物が街にやってくると、街の若い女が広場で裸になってお出迎えしたりしている

女性が乳房(乳首まで)を見せるのが、普通のファッションだった時代もある

羞恥心の歴史的、地域的な違いは、想像以上に大きい

現在でも海外のホステル(ゲストハウス、ドミトリー)で男女混合の部屋に泊まると、知らない男の前でも平気で裸になって着替えをする白人の女の子がいてビックリすることがある

ファッションの変遷は面白いのだが、図がイマイチで、「カラー版」とあるが、本当にカラーなのは巻頭の数ページで、残りは白黒

文章はやや素人臭く、集めた情報をすべて盛り込もうとしている感じで、ダラダラしていて読みにくい

(^_^;)

 

読書 魔女と聖女

池上 魔女と聖女 ヨーロッパ中・近世の女たち  -_01

 

魔女狩りが凄惨を極めた時代(15~17世紀)は、一方では聖女が崇拝された時代でもあった

聖書における魔女の原型が、ヘビに誘惑されてアダムに知恵の実を食べさせたイブなら、聖女の原型は、処女のままイエスを生んだとされている母マリア

しかし魔女と聖女は紙一重だった

聖女ジャンヌダルクは、魔女として火あぶりになった

中世のキリスト教会は徹底した男性の組織であり、その世界観において神と人間の関係を構成するとき、女性の位置づけに非常に苦労したようだ

男性(教会)にとっての女性は、まず性欲の対象であり、男には出来ないこと(出産など)をする貴重な存在であると同時に、何やら理解しがたい不気味な存在でもあった

それが強迫的に極端化した場合、聖女として崇拝するか、または魔女として嫌悪した

崇拝の対象と嫌悪の対象は、実は非常に近い関係にあるらしい

天皇家と賎民に妙なつながりがあったことが、日本の中世史でも指摘されている

現代社会でも、それまで差別されていた集団が、いつの間にか特権階級に転化する現象が見られる

(^_^;)

 

Stilke_Hermann_Anton_-_Joan_of_Arc's_Death_at_the_Stake

▲魔女として火あぶりになった、聖女ジャンヌダルク

美化して描かれてますが、実際は全裸で焼かれました

 

読書 魔女の恐怖

2653251

15~17世紀のヨーロッパでは、数十万人(人数は諸説あり)が「魔女」として処刑された

誰かが「あの女は魔女だ!」と告発すれば、すぐに本人を逮捕して厳しい取り調べが始まり、拷問による「自白」で火あぶりの刑になるか、拷問に耐えられずに死んだ

日本で言えば村八分になるような村の迷惑者だけでなく、ちょっと変わった人や、人付き合いの悪い人は、片っ端から魔女であるとして告発され、焼き殺された

14世紀までのヨーロッパは農業改革で経済が成長し、比較的豊かだったのに対し、15世紀からその反動で経済成長が止まり、飢餓が表面化した

大衆にイライラが蓄積し、そのはけ口としてスケープゴートが要求され、その具体的な行動が魔女狩り(集団ヒステリー)となった

イタリアでは華やかなルネサンス運動が進められていたが、その一方でヨーロッパの貧しい人々には、相互不信と疑心暗鬼が満ち満ちていた

残忍さではヨーロッパで一番と言われるスペインでは、異端審問によってイスラム教徒やユダヤ人が大量に告発され、村や町の広場で公開処刑されていたので、それがイライラのガス抜きとなり、魔女狩りは非常に少なかった

魔女狩りが最も徹底的に実行されたのはドイツで、当時のドイツの貧困と飢餓によるイライラの蓄積と、教会によって決められたルール(魔女を告発せよ!)を厳格に遵守するドイツ人の民族性によって、魔女狩りは空前の規模で粛々と遂行され、数十万人が焼き殺された

これと似た状況に陥ったのが20世紀のドイツで、第一次大戦での敗戦による天文学的な戦後賠償でドイツ経済は混迷疲弊し、大衆のイライラが鬱積してスケープゴート探しが始まり、ヒトラー独裁政権が登場してスケープゴートにユダヤ人が選ばれ、600万人が殺された

ユダヤ人を攻撃したのはヒトラーやナチス党員だけではなく、村や町にいる普通のドイツ人たちが、ユダヤ人を告発してガス室へ送った

現在のアメリカに広がっているデモや暴動の嵐も、中国コロナによる外出禁止や経済の混乱で、大衆にイライラが蓄積していることと無関係とは思えない

今の日本で、マスクをしていない人を攻撃する「正義の人」が増えているらしいが、このような人は魔女狩りが始まったら、真っ先に魔女を告発するタイプの人かもしれない

魔女狩りの当時、「魔女は人間の性欲を刺激して、悪魔の世界に引きづりこむ」という迷信がはびこり、性欲は魔女に誘惑された証拠として罪悪視された

そのせいか、今でもキリスト教徒には極端に性欲を罪悪視する人が多く、性欲を抑圧した反動としてオカルトにのめりこんだり、異常性欲に走る人もいる

((((;゚д゚))))

 

photo_12

▲魔女裁判で水責めの拷問をしている

水で腹が膨れると、棒で腹を叩いた

中央の男が自白調書を書いている

 

8976836567816871

 

▲イライラした黒人たちが、白人のおばあさんに暴行している

これは中世の話ではなく、今月(2020年6月)の出来事です

 

読書 レオナルド・ダ・ヴィンチの謎

51K11cAWyAL._SX340_BO1,204,203,200_

 

美術の天才と言えば、真っ先に思い浮かぶダヴィンチ

万能の天才と呼ばれ、美術以外にも、彫刻、建築、工学、音楽などにも驚くべき才能を発揮

特に音楽では即行演奏を得意とし、むしろ当時は画家よりも演奏家として有名だった

録音機の無い時代ですから、現在の我々がその演奏を鑑賞できないのが残念

そんなダヴィンチですが、私生児として差別されたり、学校教育を途中で辞めてラテン語が苦手だったり、いろいろコンプレックスをかかえて悩んでいたようです

それがために、その心理的補償として、人生の途中から自分を神格化することに非常に力を注ぎ、現代の我々がいだく彼のイメージの多くは、その神格化の結果でもあります

彼は意外にも怪獣マニアで、トカゲに羽根をつけて人を驚かしたりするのが大好きだった

kg1_1

上の表紙の絵、ゴジラ映画に出てくるキングギドラ(→)に似ているような気がします

彼が現代に生きていたら、ゴジラ映画に狂喜したことでしょう

多才な人ですから、特撮映画の撮影に取り組んだかも

(^_^;)

 

mona-lisa-super-169

 

読書 イタリア・ルネサンスの文化

5164HW97SEL

 

中公「世界の名著」のブルクハルトの巻は、

イタリア・ルネサンスの文化」だけで占められています

彼はこれとは別に、未完の「イタリア・ルネサンスの歴史」を書き、こちらで美術や建築を扱っているので、本書には主に文芸作品が扱われている

ルネサンス研究の歴史的名著であり、定番文献なのですが、膨大な固有名詞と脚注の山に圧倒されます

とても一回読んだくらいで歯がたつ相手ではないので、長生きしたら、また後日読み返すかもしれません

本書の柴田訳のあと、新訳として新井訳が出ていて、後者の方が読み易いそうなので、また読むなら新井訳かな

(^_^;)

映画『フィレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館』

 

イタリア・ルネサンス芸術とフィレンツェの魅力を堪能できるドキュメンタリー映画

今すぐフィレンツェへ行きたくなりましたよ

でも、イタリアの中国コロナは、だいぶ収束してきましたけど、まだ少し怖い

download

下の絵は、ボッティチェッリの「誹謗

女子プロレスラーの自殺で「誹謗中傷」が話題となり、言論統制的な動きも始まっているようですが、この絵の一番左にいるのが「真実」の女神

本当に彼女は誹謗中傷だけで自殺したのか?

何か別の重大な悩みがあって、誹謗中傷は原因の一つに過ぎないのではないか?

遺書に真実が書いてあるとは限りません

(T_T)

20120403015656310

 

映画 レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮

juuryoku_newton

 

英BBC制作のダビンチ入門ビデオ

見えるものの背後にあるメカニズム、それに対する興味、好奇心、探求心がスゴイ

さらに有力者への自己の売り込み(営業努力)も、しっかりやってる

これ全部、一人でやったの? という感じ

月はなぜ落ちて来ないのか、というニュートンと同じ疑問を持っていたらしい

(^_^;)

 

映画 ダ・ヴィンチ・コード

job_preast

 

期待したほど面白くはなかった

カトリック教会の正統性とか、キリストは神か人間かとか言われても、日本人である私にはいま一つピンと来ない

古代史ミステリーなら、諸星大二郎のマンガの方が面白い

日本で言えば、天皇家の正統性を揺るがす大秘密、といったところでしょうか?

(^_^;)