読書ノート

読書 ユダヤ人の「考える力」

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著者は京大を出て、東レの海外営業に長く携わっていた人

本書から受ける印象は、商社マンのそれに近く、内容に余り深みは無いが、商売でユダヤ人と付き合った経験から学んだことや教訓が豊富に並べてある

確かに自国というものを持たず、2000年も異民族に迫害されながら身を小さくして生きて来たユダヤ人だけに、実にしぶといと言うか、抜け目が無いというか、とにかくトコトン合理的な知恵に満ちている

経済学の前提となる経済人仮説(人間は損得だけで動くとする仮説)は、ユダヤ人をモデルにしたのではないかとさえ思えてくる

それがややもすると、相手の無知につけこんで儲けようとするエゲつない姿勢や、選民意識による傲慢さに転化する場合もあり、これでは他民族から嫌われるだろうなぁという感じもする

いわゆるユダヤ・ジョークがふんだんに盛り込まれていて、ちょっと毒が強いが、これはこれで面白い

例えば、コーヒーにハエが入っていた場合、東アジア・ジョークでは

日本人:コーヒーを飲まずに静かに会計をし、店を出てその店には二度と行かない

韓国人:ハエが入っていたことに大声で文句を言い、謝罪と賠償をしつこく要求する

中国人:珍味珍味と言ってハエを食う

となっているのだが、ユダヤ・ジョークでは

中国人:珍味珍味と言ってハエを食う(中国人のこのイメージは世界共通か?)

フランス人:ハエを取り除いてコーヒーを飲む(フランス人は、あまり清潔好きではないと見られている)

ユダヤ人:ハエを中国人に、コーヒーをフランス人に売って儲ける

となっている

(^_^;)

 

読書 不老の探求

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著者は1927年生まれの現在93歳

海軍兵学校→三高→東大医学部というコースで、京都大学霊長類研究所で脳生理学を研究

50代後半から一般向けの本を書くようになり、いまでは「長生き先生」といった立ち位置になって、日本全国の高齢者団体などから講演に招かれたりして飛び回っている

秦の始皇帝が全てを手に入れて、最後に望んだものが不老長寿

そのためのポイントは「かきくけこ」、つまり

  感動・興味・工夫・健康・恋

ということになるのだとする

本書はそんな著者の日常生活をエッセイ風に語りながら、上記の5要素を軸に、不老には何が良いかを説いている

そのライフスタイルを貫く好奇心と楽天性は、確かに不老の決め手になるように思える

(^_^;)

 

読書 健康の新常識100

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珍しく実用的な本を読んだ

新潟大学の医学部教授が、患者にとって気になる点を取り上げ、分かりやすく、歯切れよく説明している

著者は、最新医学論文の審査に携わっているので、「医療の最先端」を踏まえつつ、従来の健康常識を次々にひっくり返している

疲労の原因物質が乳酸というのは過去の常識で、現在では疑わしいとされている

薬には副作用が付き物だが、まれに副作用が無い(ように見える)薬もある(例)コレステロール値を下げるシンバスタチン

鎮痛剤の進歩で、いまでは末期がんの激痛は著しく緩和されていて、普通に生活出来る場合も多い

魚を食べると健康に良い理由は、よく分かっていない(EPAやDHAの効果は認められない)

ビールのカロリーのうち、吸収されるのは3割程度なので、低カロリー食品と言える(ちなみに日本酒は2割程度)

野菜果物を十分に摂り、適度な運動を毎日すれば、ガンの3分の1は予防できる

傷口にはサランラップを巻け

ウイルスを防ぐには、花粉症用のマスクが良い

血圧治療薬で血圧は下がるが、死亡率は下がらない

「医療の最先端」といっても、この本が出たのが2007年(13年前)だから、その後にまたひっくり返っている健康常識があるのかもしれない

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ちょっと気になったのは、本書の中に「睡眠時間は7時間がベスト」というのがあって、参考データ(↑)も付いてました

7時間というのは、ほぼ従来の健康常識通りですが、気になったのは

「睡眠が少ない人より、多い人の方が死亡率が高い」・・・(A)

とデータから読み取れる点です

私は今まで単純に、

「睡眠不足は不健康で、タップリ眠れば健康に良い」・・・(B)

と考えてたんだけど、上のデータはこれを否定しているように見えます

(A)が真実なら「現在の生活リズムを見直さなくちゃ!」とも思った

でもよく考えてみると、

睡眠時間が少ないのは、若い現役世代が多い

睡眠時間が多いのは、引退した高齢者が多い

とするならば、後者の死亡率が高いのは当然ですよね

いや、そうは言っても、私とは違って

多くの年寄りは早起きだから、長時間眠ってるとは限らない

ということも考えられる

何とも悩ましい・・・

(^_^;)

 

読書 ゲゲゲのゲーテ

ゲゲゲのゲーテ (双葉新書)_01

妖怪マンガの水木しげるの愛読書がゲーテだった

カントやヘーゲル、ニーチェやショーペンハウエルも読んだが、ゲーテが一番「性に合った」らしい

「ヴィルヘルム・マイスター」や「ファウスト」より、「ゲーテとの対話」が好みだという

片腕を失った戦地にも持って行った

作品よりもゲーテの人間性や生き方が好きなのだろう

人生訓の本家のようなゲーテなので、マンガが売れなくて極貧の時代を乗り切るパワーも、ゲーテから得ていたようだ

したくもない戦争に狩り出されたので、終戦のときに本当に自由を感じたという

人生で最も大切なことは「好きなことをすること」と信じる

そして寝ることが好きだから、マンガが売れて余裕が出来てからは、毎日好きなだけ寝ているそうだ

「葉隠」の山本常朝に似ている

(^_^;)

 

読書 歴史とは何か

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今から60年前、1961年初頭に行なわれたケンブリッジ大学での講演を元にした本だが、まったく古さを感じさせない

難しい問題を平易な言葉で説明するという、イギリス人の長所がよく発揮されていて、非常に分かりやすい

歴史家と事実の関係

社会と個人の関係

歴史と科学・道徳の関係

歴史における因果関係とは

歴史における進歩とは

という、歴史を学ぶ(読む)者にとって避けて通れない極めて重要な論点について、非常に明解な説明を加えている

経営コンサルタントとしてクライアント企業の管理職にインタビューする際、目前の人物が語る内容だけでなく「この人は、なぜ今これを語ろうとしているのか?」という問題意識で聴けと先輩からよく戒められた

歴史家が史料に向き合う際にもこの精神が重要で、この史料を書いた人物は、どのような意図や動機で書いたのかを深く推理せよと戒めている

西洋中世はキリスト教の時代であるとされているが、当時の歴史史料を書く能力を有していた人々は、ほとんどが教会関係者であったことを意識しなければならない訳だ

何を史料(歴史的事実)として取り上げる(残す)かは、歴史家の評価(主観)であり、事実と主観は不断の相互作用の中にあり、これを称して「歴史は現在と過去との対話である」とする

他にも胸に響く名言が多数散りばめられた、歴史哲学の名著である

(^_^;)

 

読書 ブッダから親鸞へ

漫画ブッダから親鸞へ_ 加藤泰憲作品集 (響流選書)_01

あるお寺の住職が趣味でマンガを描いていて、彼が亡くなったとき、残された作品を息子がまとめて本にした

趣味といっても、マンガ雑誌に載ったこともあるようで、シロウトの域は脱している

ブッダの十大弟子、妙好人、親鸞の生涯などを扱っている

思想的に深い内容は無いが、素朴な画風にちょっと惹かれる

(^_^;)

漫画ブッダから親鸞へ_ 加藤泰憲作品集 (響流選書)_02

読書 恐るべき子供たち

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ラディゲが20歳で夭逝したショックで、10年間も阿片中毒になったという、詩人ジャン・コクトーの作品

彼は詩や小説以外にも、劇作家、評論家、画家、映画監督、脚本家などでも活躍し、「芸術のデパート」などとも呼ばれていた

本作品は、小説の形式をとっているが、ほとんどである

ゆえに訳文が重要になるが、本作には数種類の和訳があり、今回は手元にあった佐藤朔の訳を読んだが、かなり読みにくくて途中から飛ばし読みになった

元々の作品の難解さなのか、訳文の読みにくさなのか、よく分からない

左の表紙の中条訳が読みやすいそうなので、手に入ったら改めて読んでみようかとも思う

中条氏は、ラディゲ「肉体の悪魔」も訳しており、これは読みやすかった

(^_^;)

 

読書 肉体の悪魔

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第一次大戦の前後、15歳の少年が19歳の新妻マルトに出会い、愛(不倫)に堕ちる

マルトの夫は戦場にいる

状況は単純かつ劇的、そして主人公の少年の告白に表現される恋愛心理の分析は、残酷なほど鋭利さを極めている

ガラスケースの中にチーズがあり、戦争がガラスを割り、猫がチーズを食べたのだと比喩する

驚くべきは、作者ラディゲの14歳の時の恋愛体験を、同じく16歳のラディゲが書いていること

早熟の極みである

ラディゲは、わずか2つの作品でフランス文学界の寵児となり、その直後にカキを食べて腸チフスになり、20歳で夭逝する

あの三島由紀夫が激賞した作品

((((;゚д゚))))

読書 金閣寺

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金閣寺放火事件を題材にした、三島由紀夫の代表作の一つ

放火犯人は吃音(どもり)に悩む金閣寺の見習僧で、彼の幼いころからの自伝調の内面告白が、三島独特の美文で淡々と語られている

見習僧の「建物フェチ」とも言えそうな、ファナティックな金閣に対する愛が全体の基調を成しているので、犯行動機に感情移入するのが難しい

ジョンレノンの熱烈なファンが、レノンを銃殺した事件を思い出す

彼はやがて浄土真宗の大谷大学に進学し、そこで足の不自由な男と出会い、言葉の不自由な自分との共通性を見出して接近し、親しく付き合うようになる

その親友が語る独特の人生哲学や女性観が面白い

時代背景が第二次大戦の前後で、その時代の空襲の無かった京都の雰囲気が伝わって来る

(^_^;)

 

▼消失前の金閣寺 金箔が剥げて枯れた風情だった

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▼放火による消失直後の金閣寺

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▼再建された現在の金閣寺 創建当時の姿に戻した

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読書 葉隠入門

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「武士道と云うは死ぬ事と見付けたり」で有名な佐賀鍋島藩に伝わる思想書「葉隠」を、三島由紀夫が自分流に解説している

世の中には、損得で動く人間と、そうではない人間がいる

後者でなければ大業は成し得ぬと言ったのは西郷隆盛だが、現実の社会は前者が大部分を占めている

損得で動く人間の行動は予想しやすいので安心感がある

けして無茶な行動には走らない

経済学などは、そのような合理的人間を前提として理論を構築している

しかし江戸時代、家臣が主君への忠の覚悟と生き方(死に方)を本気で貫くには、損得の感覚では具合が悪い

損得を超えた武士の哲学が必要とされ、それに応えたのが「葉隠」だった

「葉隠」は、損得勘定の武士道を、上方流(商人のようだ)と罵っている

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一方、三島由紀夫(→)は天才にありがちな、かなり変わった価値観(性的嗜好と言ってもよい)の持ち主であり、「美しく高貴に死にたい」という潜在欲求(タナトス)が極めて旺盛だったように思われる

彼はそのために、自らの死を正当化し、美化し、高貴なものとするための壮大な内面世界を構築し、作品化し、行動化していった

三島にとって「葉隠」は、そのような内面世界構築の材料としては、非常に魅力に富んでいたものと思われる

「葉隠」の思想を語った山本常朝には、死を自己目的とする意識は希薄で、ただひたすら主君への忠を貫くには、生と死の二者択一の場面では、常に死を選ぶ覚悟を持てと主張しているに過ぎない

それは、三島が45歳で自決の道を選び、山本常朝が61歳(当時としては長命)で天寿を全うした違いとなって表れている

死を本気で覚悟した人間には、それまでの世間(損得勘定の世界)が従来とはまったく違って見えるのは、何となく想像できる

近松門左衛門が、死を覚悟して心中への道行(駆け落ち)に出た男女二人は「急に背が伸びた心地がする」としているのは、まことに鋭い描写だと思う

本当の人生や美意識というものは、その感覚の後に生ずるものかもしれない

(^_^;)

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