▲地裁の法廷(この事件のものではありません)
ここ数年で世間を騒がせた「上級国民の高齢ドライバー暴走死傷事件」と言うと、
池袋暴走事件の飯塚幸三さん 元工業技術院長(理系官僚の最高峰)
が有名ですが、これとほぼ同時期に
レクサス暴走事件の石川達紘さん 元東京地検の特捜部長
も暴走死傷事件に関与しています
今日は熊さんに誘われて、石川さんの民事裁判を、東京地裁606号法廷で傍聴しました
この事件の法廷傍聴は2回目で、前回11/28は証人尋問で盛り上がったのですが、今回は判決言い渡しだけで、開廷予定の10時に裁判官が登場すると
「原告の請求を棄却する。理由は追って送達する」
とだけ言って、わずか1分足らずで閉廷(拍子抜けしました)
「原告の請求」とは、石川さんのトヨタ自動車に対する5000万円の損害賠償請求のことです
「棄却」ですから、トヨタ自動車に賠償責任無しとする判決です
憲法で裁判公開の原則が定められておりますが、民事裁判では効率化などのため
口頭陳述(読み上げ)などを書面で代用すること
が恒例化しており、証人尋問でもないと、傍聴者にとってはまったくあっけないものです
もちろん裁判資料は原則公開ですから、あとから判決全文を取り寄せれば、判決理由の詳細を知ることは可能だと思います
この暴走事件は刑事事件として、すでに石川さんの有罪が確定しています
それを民事裁判でひっくり返すのは極めて困難で、ほぼ結果が見えている裁判ということで世間も余り注目しておらず、法廷は傍聴券の発行もなく空いていました
一応、マスコミが数人来ていて、今日のニュースにはなっていました
私は以前(10年以上前かな)、裁判の傍聴にハマったことがあり(いわゆる裁判ウォッチャー)、熊さんの誘いもあったので、久しぶりに地裁法廷に入りました
前述のように民事裁判はあっけないので、裁判ウォッチャーは刑事法廷を傍聴することが多いのですが、今日は民事法廷です
法廷の隣にある待合室ですぐ近くから拝見した石川達紘さんは、さすが元東京地検の特捜部長だけあって、すでに年齢は85歳ですがお元気そうです
前回11/28は「矍鑠(かくしゃく)たる力強いオーラ」のようなものを感じましたが、今日は全面敗訴の直後だったせいか、少し元気がなく残念そうに見えました
百戦錬磨の特捜部長だった人ですし、「負けてもともと」みたいな裁判ですから、それほど落ち込んではいないと思いますが
暴走事故が起きたのは石川さんが「20歳台の美人の愛人」と一緒にクルマでゴルフに出かける際だったので、この辺に「85歳の若さの源泉」があるのではないかとするゴシップ風の報道もあります
この事件で、石川さんへの刑事判決が実刑ではなく執行猶予が付いたことに、世間から
司法関係者の身内びいき
上級国民への忖度(そんたく)
などといった激しい批判ある訳ですが、上記のようなゴシップ風の報道もいくらか関係がありそうです
とにかく、石川飯塚両事件の裁判における最大の争点は、
事故原因が、クルマの欠陥か? または運転者のミスか?
という点にあります
クルマの欠陥が機械的や電気的なものなら、時間をかければ欠陥の究明は可能かもしれませんが、最近のクルマには事故防止などのためのソフトウェアが搭載されており、これは実際には数万行とか数十万行に及ぶ膨大なコンピュータ・プログラムです
このプログラムの中に、1カ所でも1文字でもバグ(プログラム上のミス)があれば、クルマが誤作動(暴走など)するかもしれません
このようなバグを発見するのは、数十巻もあるような大百科事典の中から、あるいは日本全国のすべての電話帳から、わずか1文字の誤字を発見するような気の遠くなる作業で、完全にバグをゼロにすることは、現実にはほぼ不可能です
誤作動が常に発生するのなら対処は比較的簡単なのですが、何らかのめったにない条件下でのみ誤作動するようなバグがあると、事態はますます深刻です
簡単なバグはすぐに除去されるので、深刻なバグが残ります
そんな深刻なバグが原因で誤作動した瞬間(めったにない極めてレアな瞬間)に、たまたまクルマを運転していたドライバーは悲劇です
石川さんや飯塚さんが、そんな悲劇の主人公である可能性を、完全にゼロであると言い切ることは困難です
裁判の判決では両事件とも「運転者のミス」とされましたが、何か割り切れないものが残ります
これからクルマの自動運転が実用化されていくと、この問題はますます社会の重大問題になっていくだろうと思います
最近注目されているAIの深層学習(deep learning)が、バグの除去(デバッギング)に活用されて、デバッギングの自動化が広く実現すれば、将来への光明になるかもしれません
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石川飯塚両事件の経過比較(主にwikiより)
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石川達紘レクサス暴走事件
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1939年4月4日生まれ、85歳、中大卒、元検事
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2018年2月18日に男性1人を車(レクサス)ではねて死亡させる
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2021年2月15日、東京地裁から禁錮3年執行猶予5年の判決
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自動車運転処罰法違反(過失致死)などの罪
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判決は、アクセルペダルの裏面にペダルが踏み込まれたまま衝突事故が起きた際に生じる傷痕が残っていたことに着目し、「車の不具合のみで事故が起きたなら傷痕が生じた理由の説明が困難」として、被告がアクセルを踏み込んだと認定
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アクセルやブレーキがどう操作されたかを記録するレコーダーのデータが、事故発生前後にアクセルが強く踏まれたことを示していることも踏まえ、車の不具合はなかったと結論付けた
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2023年5月(事故発生から5年3か月)最高裁は石川の上告を棄却、禁錮3年、執行猶予5年の有罪判決が確定
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これにより石川は弁護士法の規定に基づき弁護士資格を失った
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同年8月8日付で瑞宝重光章返上
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2023年、石川は、暴走は車の欠陥が原因だったとして、製造元のトヨタ自動車と販売会社に5千万円の損害賠償を求める民事訴訟を東京地裁に提起
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飯塚幸三池袋暴走事件
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1931年6月1日生まれ、2024年10月26日93歳没、東大卒、元研究者
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2018年に足を痛めて杖をつくようになった
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2018年ころ、通院先の医師はパーキンソン症候群と似た症状があると診断し、飯塚本人に「運転は許可できない」と伝えていた
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2019年の年明けには車の車庫入れも手こずるようになった
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2019年4月19日12時25分ごろ、池袋で乗用車の運転中に多重衝突事故
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豊島区東池袋四丁目の都道、東京メトロ東池袋駅付近の交差点
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2008年式トヨタ・プリウス (DAA-NHW20) が暴走
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暴走の原因は、ブレーキとアクセルを踏み間違えたこと
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母子2人が死亡し、運転していた飯塚と妻を含む10人(飯塚を除くと9人)が負傷
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東京地方裁判所における刑事裁判
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被告人は「車に電子系統の異常が起き、ブレーキが効かなくなった」として無罪を主張
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検察官は「事故の原因は、被告人がブレーキとアクセルを踏み間違えたことだ」として、禁錮7年(法定刑の上限)を求刑
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2021年9月(事故発生から2年5か月)に禁錮5年の実刑が確定
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自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷罪)
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2021年9月17日付で瑞宝重光章を褫奪(ちだつ)
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高齢ドライバー事故への社会の関心を高め、自主返納が増加
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2024年5月時点で、関東地方の刑務所(詳細非公表)に収監
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2024年10月26日に刑務所内で老衰により93歳没
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同年11月25日に報道された
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