たとえ、それが電子化された音楽であるにせよ、私たちはいつでもどこにいても容易に音楽を”入手”し、自由に楽しむことができる。
私たちは、音楽の海に浮かんでいるようなものだ。
現代では、音楽的才能に恵まれた一部の人々が音楽を提供し、その他の人はもっぱら音楽を聴く側にまわっているが、原始社会では誰彼の別なく歌い、踊り、音楽を集団で楽しんでいた。音楽はそれほど、人間にとって根源的なものなのだ。
「人間の音楽の能力と感受性が、どの程度生来のものなのか、ほかの能力や性向の副産物なのか――に関係なく、音楽はあらゆる文化において基本であり核である」。
本書の著者であるオリヴァー・サックスは、そう語る。
「私たち人間は言語を操る種であるのと同じくらい音楽を操る種なのだ」と。
本書は、優れた医学エッセイで知られる脳神経科医サックスが、彼ならではの温かい語り口で、音楽と脳との関係をつまびらかにした音楽好き必読の書である。
「音楽嗜好症」を自認する人はもちろん、音楽好きでないという人でも、音楽の力を再認識するに違いない。 続きを読む