読書ノート

読書 天武天皇・隠された正体

61phoTcclRL._SX343_BO1,204,203,200_

天智天皇天武天皇と言えば、額田王(ぬかたのおおきみ)の和歌(↓)をめぐる三角関係が有名

 あかねさす 紫野ゆき 標野ゆき

 野守は見ずや 君が袖ふる

しかし実態は、こんな優雅な世界ではなかった

著者によると、実は二人の天皇は兄弟ではなく、その後の壬申の乱は、九州系と出雲系の権力闘争ということになる

背後で糸を引くのは、鎌足と不比等という、天才的策略家の藤原親子

乙巳の変(大化の改新)の後の天智天皇の異常な低人気、壬申の乱で天武天皇側に続々と援軍が集まったこと、天皇家が出雲大社を異常に尊重すること、などの理由がスッキリ説明できている

壬申の乱で天武系(出雲系)に移った皇位だが、天武の死後、天武の后であったのちの持統天皇によって、再び天智系(九州系)に戻ってしまう理由も、うまく説明している

天皇家の正統性に関わる重いテーマなのだが、推理小説を読むように楽しめる

(^_^;)

 

読書 検非違使

丹生谷 検非違使 _01

書名に惹かれて読み始めたが、日本中世史の専門的な論文を集めた本で、素人には読みにくいこと夥しく、かなり飛ばし読みになった

検非違使(けびいし)とは、中世における警察や裁判を扱った役所のことを言うのだが、その中の重要な役目として「ケガレ(穢れ)」を清める仕事の統括があった

例えば天皇がどこかにお出かけ(行幸)するときは、すべての道や宿を清める(清掃し、ケガレをはらう)必要があり、これも検非違使の重要な職務だった

この時代の「ケガレ」とは、まず第一にであって、死人の出た家は一定期間「ケガレた場」とされ、家族も「ケガレた者」として公的な場への出仕が一時的に止められる

「ケガレ」とは、一種の伝染病のようなものと考えられていたようだ

現在でも、家族が亡くなると学校や会社を休んで喪に服したり、葬式から戻ると清めの塩をまいたりするのは、この習慣の名残りだろう

人間や動物の死体は「ケガレ」た存在なので、やがてこれらを直接的に手を下して扱い、さらに清める専門職が登場し、「非人」と呼ばれる特殊集団を形成する

最も清い存在である宮中では、特に「ケガレ」を極端に忌避したので、「非人」の活躍する場も多く、ここに天皇と非人の特殊なつながりが形成された

書名は「検非違使」だが、主たる内容は中世における非人社会の在り方とその変遷であって、実に微に入り細にわたる検討が加えられている

歴史の専門家が学会などで、どんな議論をしているのかが見えてくる(非常に読みにくくて、参っちゃうけど)

当初は畏怖され特権を有する専門職だった「非人」だが、やがて「ケガレ」の概念が肥大化し、埋葬、屠殺、革細工などなど、非常に広範な仕事が「ケガレ」た仕事として、特に江戸時代に差別の対象になった

現代でも度々政治問題化する被差別民だが、その起源は古代・中世にまで遡る

mura_hachibu

「ケガレ」を嫌う傾向は、現代の日本人にも脈々と生きていて、世界一清潔な生活習慣となって表れている

中国コロナで、みんな一斉にマスクをするようになったことも、関係があるかもしれない

東北地方のある県では、東京から帰省した人を「ケガレた民」として忌避し、「帰れ!」「出て行け!」と罵る「正義の人」まで登場している

(^_^;)

 

読書 実見・江戸の暮らし

518Da7ZZpRL

いやぁ、グイグイ引き込まれるほど面白かった!

歴史の本にはなかなか出て来ない庶民の生活を、実にリアルに分かりやすく描いている

著者は江戸時代の生活を描いた絵を数千枚も所有していて、その絵の中に現れた庶民生活をこまめに拾っているので、文献資料だけに頼った歴史家よりずっと現実感のある描写が可能になっている

歴史書の面白さは、説明力より描写力にあるように思う

著者は江戸時代をテーマにした小説家で、1933年生まれの86歳

いな吉ファンの皆さんはご存じかもしれませんが、著者の小説『大江戸神仙伝』に登場する深川芸者のおねえさんの名前が「いな吉」なんですよね

著者の子どものころの庶民の生活は、現在よりも江戸時代に近かったようなところもあり、最近80年ほどで、日本人の生活スタイルが激変したことがよく分かる

特に面白かったのは、江戸時代の旧暦(太陰太陽暦)と、明治以降の新暦(グレゴリオ暦)の違いで、これほど分かりやすい説明は他に無さそう

歴史の本を読む楽しさというものは、現在とは異なる時代精神に触れることだと思い、そのために最近は中世史関係を多く読んでいるのだが、わずか200~300年ほど前の日本でも、これだけ違う生活があって、それなりに合理的に動いていたことが分かって、非常に楽しむことが出来た

large_191111_tomettoranomonhills_01

そんな訳で、いな吉ねえさんの登場する小説も、読みたくなりました!

(^_^;)

 

読書 死の国・熊野

51udMy1YbUL._SX306_BO1,204,203,200_

補陀落船(ふだらくせん)って何だろうと思って読み始めた

熊野の海岸から船に乗り、死を覚悟して阿弥陀浄土をめざした補陀落渡海という捨身行

熊野には常にがつきまとう

後白河を始めの院政期の歴代法皇が狂ったように参詣した熊野

やがて下々の民衆まで熊野に押し掛けるようになり「蟻の熊野詣で」と言われるほどに盛況となる

江戸時代になって民衆の行き先は伊勢になり、お祭り化、観光化してゆく

寂れた熊野は、純粋な信仰の場として残っていく

今でも熊野三山など紀伊山地は、修験道など日本の原始信仰を守り続ける聖地となっている

(^_^;)

 

8348761862

▲那智参詣曼荼羅 一番下に見えるのが補陀落船

 

873687189

 

読書 闇の修験道

middle_1444388029

日本の多くの山は、山伏による修験道の修行の場となっている

この修験道(しゅげんどう)とは何だろうか?

筆者は古代史関係の多くの本を書いている歴史作家で、本書では、この修験道の謎に挑んでいる

筆者によると、日本には縄文時代から続くアニミズム信仰があったが、仏教の流入に刺激されて、7~8世紀ころに上からの官製神道として、中臣神道が形成されてゆく

天智天皇派の中臣(藤原)鎌足と息子の藤原不比等が宮廷(天皇家)を実質支配し、自分たちに都合良く、歴史(日本書紀)と宗教(中臣神道)をまとめていく

この中臣神道からこぼれおちた、従来からの日本古来の信仰が、修験道になったという

このような経緯から、修験道の勢力は反藤原となり、さらに反権力となったので、時の権力者からは敵視されることが多く、「」と呼ばれるようになる

yamabushi

はるか後の世の、明治維新による廃仏毀釈の真のターゲットは、仏教ではなく修験道だったと言う

藤原氏の権力奪取によって、これまで天皇家を支えてきた旧勢力は疎外され滅ぼされていくが、その残党は壬申の乱で一時復権し、やがてまた藤原氏が権力を奪い返す

こうして平安時代は、藤原氏と反藤原による権力闘争の場となる

その後の日本史の動乱の中で、修験道の勢力は常に、反権力の立場で歴史に関わってくる

著者は、藤原氏こそ日本史最大の悪党と考えているようだ

(^_^;)

 

 

読書 「おかげまいり」と「ええじゃないか」

41PM+1mw+UL._SX301_BO1,204,203,200_

おかげまいり」は、江戸時代に起こった伊勢神宮への集団参詣

数百万人規模のものが、およそ60年周期(「おかげ年」と言う)で3回起こった

ええじゃないか」は、特に最後の回(慶応3年・1867年)で発生した集団乱舞だが、これは明治元年の前年

著者は1912年生まれの京大出身の歴史学者なのだが、ガチガチのマルクス教信者のようで、階級闘争に結びつかないと価値を認めないようなところがあり、本書が刊行された1968年ころの時代精神(70年安保闘争のころ)が伝わって来る

観光旅行など多くの人には夢のような話だった江戸時代に、伊勢神宮めざして数百万人規模で「民族大移動」をしたという事実に驚く

伊勢神宮の近隣はもとより、遠く九州や東北地方からも、みんな歩いて伊勢をめざした

当時の人口(3000万人くらい)を考えると、長距離を歩ける者の3人に1人くらいが、民族大移動に参加したことになる

60年周期とすると、1867年の次は1927年(昭和2年)で、この時は金融恐慌など社会不安は大きかったが、「おかげまいり」は起きなかった

しかし、少し後に満州事変が起きて日中戦争に突入していくが、このころ日本軍は連戦連勝で、大日本帝国の支配地が広がることに熱狂して提灯行列する国民も少なくなかった

その次は1987年(昭和62年)で、バブルの真っただ中、日本中が狂喜乱舞した時代

さらに次は2047年ですけど、それまで生きてるかな~?

(^_^;)

 

ええじゃないか踊り _01

▲ええじゃないか踊り

 

▲伊勢神宮

 

映画「ええじゃないか」

 

▲バブルのころのジュリアナ東京

お姉さんたち 今は還暦くらい?  (^_^;)

 

▲最近の伊勢神宮への集団参詣

 

読書 真夜中の裏文化

村上 真夜中の裏文化 最後の夜這奴 _01

夜這いに興味を持った作家と、若い頃に夜這いをしたことのある男の、手紙の交換という体裁で書かれている

冬には雪が3メートルも積もり、零下25度にもなるという山深い村の夜這いの体験が、淡々と述べられる

夜這いにもルールがあり

 結婚が決まった娘には夜這いしない

 まったく初対面の娘には夜這いしない

 娘に断られたらすぐに帰る

などが守られていたそうだ

昭和30年代まで、日本の多くの田舎に残っていた夜這いと言う風習が、特に禁止された訳でもないのに、いつの間にか消えてしまったのはなぜだろう?

(^_^;)

夜這いの民俗学

ねむり姫の謎

 

読書 ハーメルンの笛吹き男

阿部 ハーメルンの笛吹き男 _05

1284年6月28日の朝、ドイツ北部ハーメルンの街に異様な服装の男が現れて、笛を吹いた

すると街の中の子どもたちが、家々から出てきて男の周りに集まり、そのまま男に連れられて街の外に出て、130人が姿を消した

これが有名なハーメルンの子ども失踪事件

悲嘆に暮れた親たちは、街の重大事件として記録に残した

やがて話に尾ひれが付いて、ドイツを代表する伝説となってゆく

本書は、この伝説の背後にある事実関係を探ることで、推理小説のように興味を引きながら、中世の都市における人々の社会、生活、楽しみ、苦悩、時代精神を探っていく

社会の最底辺で呻吟しながら生きた人々が、どのような気持ちで毎日を生きていたのかが、少しずつ伝わって来る

ドイツ中世史を探る著者が、ドイツの資料館で、歴史文書をコツコツと探る姿

そこには、歴史が紡ぎ出される作業というものが実感できる

(^_^;)

 

阿部 ハーメルンの笛吹き男 _03

 

OBJET-001

 

OBJET-002

▲現在のハーメルン 奥の尖塔がマルクト教会

 

読書 日本中世の民衆像

網野 日本中世の民衆像 _01

前半で平民、後半で職人を扱っている

本書で言う平民とは、その大部分が農民で、土地に縛り付けられ、年貢を納める義務を持つ

年貢と言うと米俵をイメージするが、それ以外に広範な内容を包含していた

本書で言う職人とは、平民(農民)以外のほとんどあらゆる職業の者を意味し、手工業者だけでなく、商人、漁師、狩人、芸人、娼婦、医者、呪術師なども含む

職人の最大の特徴は、土地に縛られずに諸国を移動でき、年貢を負担しないこと

職人集団はその特権維持のために、天皇や公家、寺社など権門との関係を表す「由緒書」を所持していた

職人の中のある者は、時代が下ると被差別集団になるのだが、ここに社会の最上部(天皇)と底辺(非人など)のつながりが不思議な形で残ることになる

先に読んだ同じ著者の『無縁・公界・楽』とかなり重複している

筆者は共産党員で、学界主流から外れていたので、天皇制や既存学会をやや敵視している

(^_^;)

読書 世界の歴史がわかる本1

51w2pGiS6oL

著者は高校の世界史の先生で、NHKの高校講座の講師もしていたみたい

教科書のような無味乾燥な文章ではなく、まず最初に「・・・なのはなぜか?」という疑問を出し、それに答える形で説明を進めるスタイルをとっている

さほど目新しいことは書いてないが、面白く読めた

西洋史だけでなく、中国やインドも含めて、文明の発生から13世紀くらいまでを扱っている

中国って、ずぅーっと専制王朝国家であって、大部分の中国人は歴史上一度も、自由とか民主主義を味わってないんだよね

一時(唐のころ)は世界で最先端の文明を持ったこともあるけど、その後の進歩が余り感じられない(むしろ退歩してる)

今でも大陸中国には普通選挙も無く、共産党独裁政権の残酷な支配に甘んじている

つい最近まで、子供は一人までとか共産党が勝手に決めてたし、住所も自由に変えられない

最近の中国コロナの大騒ぎもあって、中国みたいな国が世界の覇権を握ったら、人類は大変なことになるって、いま世界中の人が思い始めてるんじゃないかな?

(^_^;)