西日本豪雨で甚大な浸水被害を受けた岡山県倉敷市真備(まび)町で、多くの住民が取り残される中、「どげんかしたらないかん」と、水上バイクで約15時間にわたり、約120人を救助した町出身の若者がいる。
「町のヒーローじゃ」。救助された住民たちから命の恩人として感謝されている。
「おかんが真備の家に取り残されとる。どうにか助けてもらえませんかね?」
7日昼前、岡山県総社(そうじゃ)市の建設業、内藤翔一さん(29)は、同じ真備町出身の後輩で岡山市に住む上森圭祐さん(25)から電話で頼まれた。
地元の浸水被害に、内藤さんは「なんかできんか」と思っていた矢先だった。
趣味で水上バイクに乗ることがあり、免許も持っている。総社市の自宅から真備町はほど近い。
「すぐ行っちゃるわ!」
水上バイクを友人から借りて、出発した。
昼過ぎ、泥水は民家の2階ほどまで上がり、水かさは依然として少しずつ増していた。
木やタイヤなど様々なものが流れ、油の臭いが鼻を突いた。
ヘリの音が響く中、ベランダや屋根の上に避難している人々から救助を求める声が、数メートルおきに聞こえた。
「助けて」「こっち回って!」
「次行くけ、待っとって」と伝え、最初に上森さんの母親を救出した。
取り残されている人々の多くが高齢者。自力でバイクに乗ることができず、抱きかかえる必要がある。
途中から地元の後輩にも手伝ってもらった。助け出した人々は、高台にある森泉寺まで運んだ。
近くの岩田忠義(ただよし)さん(73)夫婦も内藤さんたちのバイクに助けられた。
軒下まで水が迫り、夫婦で屋根の上に避難した。
昼過ぎに119番や110番で救助を頼んだが、助けは来なかった。
ヘリが近くを飛ぶ度にタオルを巻いたさおを振って助けを求めた。
数時間すると「ブーン」と鈍い音が響いた。「もしかして、やっと助けが来たのか」。
近づいてきたのは水上バイク。内藤さんから「子どもを先に運ばせてな。絶対戻るけん、絶対間に合うけん、頑張って」と励まされ、ほっとした。
しばらくして、約束通り内藤さんは来た。バイクに乗りながら「じいちゃん、命がけで助けたんじゃけ、長生きしてよ。絶対で」と肩をたたかれた。
うれしくて、涙が出た。
「内藤さんは、町のヒーロー。命の恩人じゃ」
ばあさん「あれ気に入ったから買ってや」
じいさん「すぐ買っちゃるわ!」 (^_^;)