東日本大震災から1年を迎えるにあたり、日本演出者協会と笹塚ファクトリー(東京都渋谷区)は、2012年3月7~11日、被災地の高校生らが劇を上演するなどの共同企画「3・11~1年目の春」を同ファクトリーで開催する。
7~9日は第1部として、短編演劇集「賢治のまなざし」を上演。東北の地を愛した宮沢賢治や被災地をテーマに首都圏の各劇団ユニットが短編の劇を演じる。
10、11の両日は第2部「フェニックスプロジェクトVol・4」として、福島県相馬市の相馬高校の生徒たちが舞台「今伝えたいこと」、同県郡山 市のあさか開成高校が「この青空は、ほんとの空ってことでいいですか?」、東京都の新宿高校が「ひたすら、国道6号線。」をそれぞれ上演。
また、10日は新国立劇場の宮田慶子・演劇芸術監督の司会で高校生らとアフタートーク。11日は震災発生時刻の午後2時46分に合わせて、全国の 高校生から寄せられた「100文字のメッセージ」を高校生たちが読み上げるリーディング企画を実施する。問い合わせは03・5909・3074へ。
都立新宿高校『ひたすら、国道6号線。』
原案:朝見たUMA 作:高木優希(生徒創作)★アマチュア創作脚本賞
⇒上演台本が公開されています「ひたすら、国道6号線。」(PDF)(2011/11/28追加)
都立新宿高校にめでたく合格したウッキウキの高校生男子(高木優希)。
「学業に励むか部活に没頭するか恋愛を充実させるか・・・いやその全部だ!」と意 気揚々と高校生活をエンジョイし始めます。
可愛い同級生女子とともに演劇部に入り、ちょっと怖くて乱暴な他の女子にからまれつつも、演劇部は全国大会に出 場。
して入試でも東大合格!なんと順風満帆な人生!!、の、はずだったのですが、次の幕で彼はいきなり牢屋(=脚立の下)に入れられていました。
1人の女子(怖い女子を演じていた人)がやって来て「自分は(お菓子の)ケーキだ」と名乗り、牢屋の彼に向かって、自分の体を生クリームでデコ レーションしろと言います。
鍵はなぜか開いていて、自分で牢屋から出ることができた男子は、ケーキ(女子の体)をデコレーションしたり、一緒に戦争ごっこ したりします。唐突で奇想天外な妄想タイムが始まりました。
舞台奥には真っ白の模造紙が貼られた壁が上下(かみしも)に2枚建っていて、その間はちょうどドア1枚分ほどの間が空いており、出はけ可能です。
壁の前には左側(下手)と右側(上手)に1人ずつ女子がいて、黒いペンで模造紙に図形を描きはじめます。牢屋にいる人物らは絵について一切言及せず、演技 と同時進行で絵は増えて行きます。
最初は○(丸)や□(四角)が並ぶだけで何の模様かわからないのですが、徐々に左側は地震と津波の被害を示す絵で、右側は福島第一原発を示す絵だとわ かってきます。
家族写真、ビルの上に乗っかった船、菊の花束をそなえる人、もくもくと煙を上げる、骨組みがあらわになった四角い建物・・・。
絵を描く女生 徒らの丁寧な手つきに、今苦しんでる人々、がんばっている人々への思いが込められているように見えました。
やがてケーキは「自分は完成したから売られるのだ」と言って、彼のもとを去ります。今度はそのケーキを食べたという見知らぬ少女が、面会に訪れま した。
少女は「何かを食べたら、それを作った人のことがわかる。あなたは罪を犯していないはず」と言い、男子が間違って逮捕されたことがわかってきます。
彼は国道6号線を走っていた時に捕まったようなのです。※このあたりのことはあまり覚えていません。警察権力の横暴を描いたのだろうとも解釈しました。
男子は牢屋を飛び出して走り出します。自分の空想の中に閉じこもる事をやめて、現実(=模造紙の絵)を見に行くことにしたのです。
自分の足で走っ ているのか自転車に乗っているのか判別できなかったのですが、終盤では彼の背後に少女もいたので自転車かもしれません。
どちらにしても自動車や飛行機では なく、自力で国道6号線を突っ走っていました。200キロ進むと、地震と津波で壊滅した街が見えました。橋桁しかない橋、砂まみれのぬいぐるみ。
そこから 20キロ進むと、警察官の姿が多くなり、足止めされました。
「管理区域だ」と言われます。さらにまっすぐ走ると福島第一原発が現れました。
演劇という嘘 (彼の妄想)の中で、たった数秒で福島第一原発に到着した時は、胸がぐしゃりと押しつぶされるような思いがしました。
男子「いびつな立方体」。
怪物「(赤く燃える原発を見て嗤いながら)想定外、だって!」
男子「想像力が、足りてなかったんだ。」
サザンオールスターズの「TSUNAMI」が流れる中、突然現れた怪物(ケーキ?演劇部女子?)と男子はぶつかり、取っ組み合い、暴れまわります (どういう文脈でこのシーンになったのかは失念)。
放送が自粛された悲しい有名ポップスをBGMに、言葉ではあらわせない熾烈な憤り(などのさまざまな感 情)を全身で表現してくれたように思いました。のたうちまわる、若く、か弱い体たち。
日本の子供たちが心にどれほどの傷を負ったのか、その深さは計り知れ ないとあらためて思いました。
愚かな大人に、醜悪な世界に絶望して、何もできない無力な自分にも絶望した男子と少女は、ピストルで何度も自殺を試みます。
でも空想(演劇)の中 では、死ねない。2人はお先真っ暗のどん底で挫折しますが、やがて、いま自分たちを絶望させた現実を見つめ、生きていくことを選びます。国道を走ってきた ように、また前を向いて走り始めました。
終幕。
(^_^;) さすが、芸術に強い新宿高校!