ネコと生態系

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人間の経済活動は地球環境を悪化させ、動植物の生態系に大きな影響を与えている。

本来の生息域が狭められ、人間と競合関係にある肉食獣やスカベンジャー(腐肉や残飯をあさる動物)は排除され、生態系のバランスも変化した(※1)。

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 ネコはカワイイだけでなく ワイルドな魅力がありますね

  不良少年に惹かれる 少女の気分でしょうか  (^_^;)

 

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(注)ネコ科の動物は孤独を愛するので 人間やイヌのように徒党を組みません

夜中に集会を開くことはありますけどね  (^_^;)

 

 

肉食獣が減ることによる影響

その結果、農作物への害獣害虫が増え、過度な農薬使用に頼ったり、害獣害虫駆除のために導入した外来種がさらに生態系に無視できない影響を与えるという悪循環に陥ったりする。

例えば、ワシやタカ、フクロウなどの猛禽類が生態系に果たす役割は重要で、地球上で最も広く分布しているフクロウの数が減るとネズミなどの害獣が増えることが知られている(※2)。

また、肉食獣などの個体数変化は、人間と肉食獣との人獣共通感染症(動物由来感染症)の病原体や寄生虫にも大きな影響を与えることが知られている(※3)。

普通に考えれば、キツネが絶滅すればエキノコックス寄生虫も絶滅すると予想されるが、必ずしもそうではないようだ。

例えば、環境変化でコウモリの多様性が減少すると、彼らに寄生していたトコジラミが人間を宿主に換えるようになるらしい(※4)。

 最新の研究(※5)によれば、生態系で上位にある肉食獣やスカベンジャーは、シカが捕食されることで車とシカとの衝突事故が減り、害虫を減らすことでトウモロコシやコーヒー豆の生産量が増えるという役割を果たしている。

トラやクマなど、肉食獣などの脅威は確かにあるが、彼らを駆除することで多様な生態系が失われる危険性もあることを知るべきだ。

生態系に君臨する「ネコ」

ところで、少なくとも日本では狂犬病対策もあり、放し飼いのイヌを現在ではほとんど見かけなくなっている。先日、京都でシカを捕食していた野犬が発見されたが、多くの地域でイヌよりも野良ネコ(もしくは外出自由の飼いネコ、放浪ネコ)のほうがずっと多い。

こうしたネコが生態系にどんな影響を与えているか、各国で多種多様な研究がある。

ペットのネコに関する10カ国25の論文を比較したメタアナリシス(※6)では、オスのほうが行動範囲が広く、オスメスともに住宅がまばらなほど行動範囲が広かった。また、ほぼ8歳を境にして活動範囲が減っていくらしい。

1億1700万~1億5700万匹のネコがいるとされる米国の研究では、ネコは推定で1年で10億羽の鳥類を殺しているようだ(※7)。オーストラリアの研究では、オーストラリア全土のネコは1日に100万羽を超える鳥類を殺し、野生化したネコは1年で3億1600万羽、ペットのネコも1年で6100万羽の鳥類を殺していると推測している(※8)。

ネコの捕食行動は気まぐれで、ネズミなどの哺乳類からスズメなどの鳥類、カエルやトカゲ、セミなどの昆虫などを捕らえる。こうした彼らの獲物が、環境の多様性に対して少なくない影響を与えているのではないか、というネガティブな研究も多い。

 人獣共通感染症にしても、ネコによるものが増えている。ジフテリアに似たウルセランス菌による感染症も各国で報告され、日本でも野良ネコからの感染と考えられる60代の女性が死亡した。

ネコが生態系を調整する可能性

人間が多く住むエリアで、ネコは最も強力な捕食肉食獣となる。人口密度が高くなれば、ネコの数も必然的に増え、本来の天敵の地位を奪い、生態系を激変させる可能性もあるだろう(※9)。

一方、オーストラリアでネコが出入り自由のエリアと夜間の外出しが規制されているエリア、そしてネコの飼育自体が規制されているネコがほとんどいないエリアを比べた調査研究(※10)によれば、外へ出たネコはほとんど周囲の生態系に影響を与えていないという結果もある。この研究では、種の多様性を評価する尺度(※11)で3つのエリアを比較しているが、研究者は草原や森林など植生の違いも考慮すべきといっている。

植生によって捕食対象のネズミなどの密度が変わるからだ。ただ、これらの研究は主にペットで外へ出されているネコを対象にしていて完全な野良ネコや飼い主のところへあまり戻らない放浪ネコについて調べたものは少ない。

生態系の中で、肉食獣やスカベンジャーの数が急速に減りつつあることは間違いない。ネコが生物多様性を脅かす存在という研究は多いが、彼らの捕食行動がネズミや野鳥、爬虫類、昆虫などの数を調整し、むしろ多様性を保つ役割を果たしているのかもしれない。野良ネコを含むイエネコがそうした生態系での役割をになっている、とは考えられないだろうか。

※1:Marcos Moleon, et al., “Humans and Scavengers: The Evolution of Interactions and Ecosystem Services.” BioScience, Vol.64, Issue5, 394-403, 2014

※2:Lushka Labuschagne, et al., “Are avian predators effective biological control agents for rodent pest management in agricultural systems?” Biological Control, Vol.101, 94-102, 2016

※3:Myeema C. Harris, et al., “Species loss on spatial patterns and composition of zoonotic parasites.” Proceedings of the Royal Society B, DOI:10.1098/rspb.2013.1847, 2013

※4:Klaus Reinhardt, et al., “Biology of the Bed Bugs(Cimicidae).” Annual Review of Entomology, Vol.52, 351-374, 2007

※5:Christopher J. O’Bryan, et al., “The contribution of predators and scavengers to human well-being.” nature ecology & evolution, Vol.2, 229-236, 2018

※6:Catherine M. Hall, et al., “Factors determining the home ranges of pet cats: A meta-analysis.” Biological Conservation, Vol.203, 313-320, 2016

※7:Nico Dauphine, Robert J. Cooper, “Impacts of Free-Ranging Domestic Cats (Felis Catus) on Birds in the United States: A Review of Recent Research with Consevation and Management Recommendations.” Proceedings of the Fourth International Partners in Flight Conference, 2009

※8:John Woinarski, Brett Murphy, Leigh-Ann Woolley, Sarah Legge, Stephen Garnett, Tim Doherty, “For whom the bell tolls: cats kill more than a million Australian birds every day.” The Conversation, October 4, 2017

※9:Rebecca L. Thomas, et al., “Ranging characteristics of the domestic cat (Felis catus) in an urban environment.” Urban Ecosystems, VOl.17, 911-921, 2014

※10:Maggie Lilith, et al., “Do cat restrictions lead to increased species diversity or abundance of small and medium-sized mammals in remnant urban bushland?” Pacific Conservation Biology, Vol.16(3), 162-172, 2010

※11:シャノン・ウィナー指数(Shannon-Weiner Index):米国の数学者、クロード・シャノン(Claude Elwood Shannon、1916~2001)による生態系の多様性を計る指数。種類が多く、広く均等に分布しているほど高い数値となる。不確実な情報をエントロピーを使って定量化する。

石田雅彦 フリーランスライター、編集者

北海道生まれ、医科学修士(MMSc)、横浜市立大学・共同研究員(循環制御医学教室)。近代映画社を経て独立、醍醐味エンタープライズ(編プロ)代表。ネットメディア編集長、紙媒体の商業誌編集長などの経験あり。個人としては自然科学から社会科学まで多様な著述活動を行う。法政大学経済学部卒、横浜市立大学大学院医学研究科修了。日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)会員。著書に『恐竜大接近』(集英社、監修:小畠郁生)、『遺伝子・ゲノム最前線』(扶桑社、監修:和田昭允)、『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』(ポプラ社)、『季節の実用語』(アカシック)、『おんな城主 井伊直虎』(アスペクト)など多数。

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