野良猫13匹を虐待したとして、動物愛護法違反の罪に問われた大矢誠被告(52)に対して、東京地裁は12月12日、懲役1年10月、執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。
大矢誠被告は2016年3月から2017年4月にかけて、野良猫に熱湯をかけたり、ガスバーナーであぶったりするなど虐待を加えて、9匹を死なせて、4匹にケガをさせた罪に問われた。
大矢誠被告はさらに、その虐待の様子を撮影した動画をインターネットに投稿していたという。
東京地裁の細谷泰暢裁判官は、「犯行は誠に残虐で、社会に与えた影響は大きい」と認定した。
一方で、大矢誠被告に前科がなく、廃業や家族への嫌がらせなど、社会的制裁を受けていること、同じような事件との兼ね合いから、執行猶予をつける判決を下した。
●ネット署名が15万筆あつまる
この判決を受けて、動物愛護の啓発活動をしているタレントの杉本彩さん→は、都内で記者会見を開いて「すごく悔しい。納得できない」と怒りを口にした。
今回の事件をめぐっては、署名サイト「Change.org」では、大矢誠被告に対して執行猶予の付かない「実刑」を求める声があがった。
15万筆以上の署名が集められて、東京地方検察庁などに提出された。
署名を呼びかけた綿引静香さんは会見で「なぜ、執行猶予にするのかわからない。司法が犯罪者を守るのでよいのか」と話した。
タレントの杉本彩さんは、公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」で代表理事をつとめている。
11月28日の第1回公判と、この日の判決を法廷で直接聞いていた。
傍聴した理由について、杉本彩さんは「(大矢誠被告が)どんな言葉を発するのか。世の中のみなさんに伝えていく使命感を感じていたから」と説明した。
杉本彩さんは「現行の動物愛護法では、限界がある。来年の改正では、どうしても厳罰化する必要があると感じている。今後、こうした凶悪犯罪に重い罰が下されることを心から望んでいる」と、怒りと悲しみで声を震わせながら、厳罰化を訴えていた。
ネコを虐待すると 怖いぞ~
化けて出るぞ~ ((((;゚д゚))))
目を背けたくなるような映像がネットに投稿されていた。
鳴きながら鉄製のオリの中を逃げ惑う、苦痛に怯えた表情の猫。熱湯を浴びせられ、ガスバーナーで焼かれ黒焦げにされる猫。瀕死の状態で歯を抜かれる猫……。
その様子を撮影している男こそが、動物愛護法違反の罪で8月27日に警視庁保安課に逮捕、東京地検に起訴された埼玉県さいたま市の大矢誠被告(52)だ。
少なくとも13匹の猫を虐待し、うち6匹の命を奪ったとされる。
一部始終を動画撮影、インターネット上の匿名掲示板に投稿してその成果を報告していた。
悪趣味を通り越した、猟奇的な行為だ。
虐待の凄惨さは回を追うごとにエスカレート、ネットの闇で動物虐待を喜ぶ連中は、大矢被告を「カルおじ」の愛称で持ち上げていた。
大矢誠被告を知る人物が、表の顔を説明する。
「20年以上役所に勤務、5年くらい前に退官したそうです。役所に長く勤めていたせいか上から目線で話しますが、勤務態度はまじめで、仕事ぶりも細かく、トラブルもなかったそうです」
さいたま市の大矢誠被告が住む自宅の近所の女性は、
「マンションの組合の役員をしたり、お子さんとサッカーをしたり、家族思いの普通のおじさんという印象でした」
一見、仕事も家庭も順風満帆に見える人物が、次々と猫を捕まえ命を奪っていった。
猫の惨殺現場になったのは、同県深谷市にある一軒家。大矢誠被告の母親の実家だ。
古くからの住人は、
「大矢誠被告のおじにあたる人が住んでいましたが、10年くらい前に他界されて、それ以降は空き家になっていました」
と明かし、事件後に気づいたことを不安げな表情でつけ加えた。
「うちの家族が言っていましたが、事件のあった家からは、時々煙が上がっているのを見たことがあるそうです。猫を焼いていた煙なのか……」
事件の兆候のような出来事が大矢誠被告の事務所があるさいたま市見沼区周辺で起こっていた。近隣住民は話す。
「夏ごろでしたか、野良猫が毒を飲まされて死んだんです。近所の人が飼う猫も行方不明になったり、近くの団地でも野良猫の数が、はっきりわかる感じで減っていました」
今から10年ほど前、大矢誠被告が川越税務署に勤務していたころに身勝手なトラブルを起こしたことがあるという。
当時を知る地元商工会の担当者が明かす。
被告を直撃
「納税者の留守に勝手に敷地内で税務調査をしていたそうです。それが発端でトラブルに発展。納税者から相談を受け、私たちが抗議活動をすると、その様子を勝手にケータイのカメラで撮影。結局、彼の上司が写真を消去しておさまりました。横柄というか高飛車な印象は、彼を知る人物の一致した見方でしたね」
大矢誠被告の横柄さは、逮捕後の供述に、如実だ。
「猫は糞尿が臭く、爪で壁などを傷つけるので、有害動物の駆除をしただけ。法律違反ではない」
と、トンデモない強弁を繰り返したという。反省の様子は、まったくない。
9月20日に保釈されたばかりの大矢誠被告を直撃した。
「違います、違います、従業員です」と他人のふりをし、なぜ猫を虐待したのですか?と質問をぶつけても、無言。
事件の説明をすることもなくそのまま歩き続け、助けを求めるために、なんと交番に駆け込んだのだ。
猫は動物愛護法で定められている『愛護動物』にあたる。殺したり、傷つけた場合の罰則は、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金になる。ペットはもちろん、野良猫も同様だ。
しかし猫の虐待、殺害事件で裁判になるケースはまれ。2016年、同様の事案が33件起訴されたが、29件が罰金刑を求めた略式起訴だった。
懲役刑を求める署名活動
大矢誠被告に懲役刑を求めるインターネット署名の活動をしている綿引静香さんは9月6日、約3万7000筆の署名を東京地検に提出した。
「事件を知り、ショックと怒りを覚えました。虐待、殺害をして罰金で終わりなんて社会、おかしくないですか?」
と署名活動の理由を語り、その効果を次のように期待すると同時に、大矢誠被告に償いを求める。
「初公判に向けて10万人分の署名を提出したいと思っています。難しいかもしれませんが、実刑になれば、他の虐待への抑止力になります。
猫を虐待し、その動画で盛り上がるのは、異常です。心の闇が広がっているように思います。猫が嫌い、苦手だからといっても虐待していいわけではない。被告には一生かけて償ってほしい。可愛がれとは言いません、罪の深さを考えてほしい」
このような一般市民の動きを、「罰金刑ではなく、懲役刑を求めるムーブメントが高まっている」ととらえるのは、ペットや動物の問題を専門としている石井一旭弁護士だ。
「少しずつですが、厳罰化に向け動きだしています。小動物の虐待は再犯率も高く、何らかの犯罪の温床、きっかけになることもありますからね」
そう話すと同時に、人間の事件と違って人材を投入できない捜査当局にかわる新たな組織づくりを提案する。
「“アニマルポリス”のような専門機関を設置することが必要です。加害者たちは罰則を知っているから、隠れて虐待する。それを捜査で明るみにしなければ、新たな事件が起きる。罰せられることをアピールする必要はあります」
逮捕拘留中の大矢誠被告は、面会した事務所関係者が「事務所を出て行ってもらえますか?」と言っても、「俺を追い出したいのか!」と食ってかかったというが、
「保釈されて世間の反応をいろいろ見たり聞いたりしたんでしょうね。本人から、“撤退する”と申し出があったそうです。今は、少し弱気になっていると聞きました」
と前出の大矢誠被告を知る人物は、直近の様子を明かす。
9月29日現在、市民の怒りや悲しみの声が反映された署名は9万3000筆を超えた。
現在、大矢誠被告は、妻と2人の子どもと暮らし、初公判を待つ。どうあがこうが犯した罪は消えることはない。
大矢誠被告は自分のしたことを自覚しているのだろうか。