地中海の真ん中に浮かぶマルタ共和国は、紺碧(こんぺき)の海に美しい石造りの家々や城壁などが調和する印象的な島国だ。
十字軍由来の「マルタ騎士団」やハンフリー・ボガートが主人公の探偵にふんした映画でもおなじみのダシール・ハメットの小説「マルタの鷹」などもこの島由来とされる。
人口の倍近くのネコが住むマルタは、ネコ好きの間では、田代島(宮城県)や青島(愛媛県)と同じ「猫島」として知られている。多くの愛好家が、風光明媚なネコの“聖地”に癒やされにやって来る。
「ネコは好きだよ。獲った魚はもちろんあげるさ。この島の伝統だからね。すごく古い文化だ」。島東部の港町・マルサシュロックで、漁師のアンソニー・ダマートさん(49)はそう話した。「まあ、あげるのは食べられない大きさのものだけど」
マルタ共和国は、マルタ島をはじめとする3つの島からなり、面積計約316平方キロ。
人口は42万人弱だが、ネコは70万匹も住んでいるという。
フェニキアやカルタゴ、ローマにアラブに騎士団と、紀元前からさまざまな勢力が行き交ったため、さまざまな言葉や風習が混ざり合い、独特の文化を形成した。
要塞の壁に囲まれた旧市街、カラフルな船がずらりと並ぶ漁師町など、マルタ特有の風景の中で気ままに暮らすネコたちは、とびっきりの被写体だ。
撮影していて、いずれも毛並みがよいことに気づいた。去勢手術を受けたネコも多い。病気のネコも少ないみたいだ。もちろん自然にそうなったのではなく、住民の努力のたまもの。
「喜んでくれる」世話はみんなで
観光客が多い繁華街セント・ジュリアンズを歩いていたら、「キャットビレッジ」と名付けられた一角に行き当たった。ネコがくつろぎやすいよう、小屋やぬいぐるみが置かれている。
ローザ・ザミート・サリーノスさん(69)が、自宅前に設置し、地元の名物になっている。ローザさんは、エサだけでなく注射も手術も自腹でまかなっている。募金箱も設置しているが、節約のために魚釣りは欠かせない。
「このコはジジ。このコはパヴァロッテイ。こっちはメルセデスにバニー」と、10匹以上いるネコの名前を次々とあげる。「このコたちは、ペットじゃなくて子供よ。名前を覚えているのは当然。私は忙しくて結婚することもなかったけどね」
首都バレッタからバスに乗って約30分、オルミという町に、NPO法人「トマシーナ・キャット・サンクチュアリ」が運営する施設がある。
約20年前から事故にあったり病気にかかったりしたネコを保護、治療しており、現在約350匹の面倒を見ている。12人のボランティアがエサやりや掃除に従事。1回の食事に必要とするキャットフードは60缶にも及ぶ。
カルメル・セラチーノ・イングロット会長(71)は、「お金はかかるけど、ネコは喜びを与えてくれる。幸せだよ」と話す。以前は専門学校で園芸を教えていたが、退職後、「これからはネコたちのために時間を使おう」と、ネコを救い続ける。
「ネコは自由で平等。イヌみたいに主人を作ろうとしない。だから好きなんだよ。父も母もネコが好きだった。これはDNAだね」
温暖な気候に美しい町並み、豊富な魚介類やホスピタリティーにあふれた住民。マルタが受け継いできた「DNA」が、旅人をひきつけると同時に、ネコの楽園を生んだ。
生まれ変わるならマルタのネコがいい-。