毎日新聞「母校を訪ねる」シリーズ

WS000000版画家・百瀬晴海さん

新宿高校2001年度卒

 優しい色合いの動植物や街の風景を中心にした作品で、若手版画家として注目される百瀬晴海さん(33)=2001年度卒。

 美術室に入り浸って油絵の具のにおいに囲まれ、「モネの画集が恋人だった」という、アート系女子の青春の日々を聞いた。

 彫刻家の父の活動拠点である米国ニューヨークで生まれ、小学2年から東京都世田谷区の小学校に転校しました。

 クラスではなじめずちょっと浮いていました。

 でも、絵を描いていると同級生が私の机まで見に来たりして、一目置いてもらえるようになりました。

 描くことは自分にとってコミュニケーションの手段でした。

 小6の時に描いた経堂の天祖神社の写生画が、区の特選に選ばれて神社に奉納されたことも自信に つながり、画家を目指すようになりました。

 新宿高校は、近くに美大受験の予備校と画材専門店「世界堂」もあり、自分に必要なものがぎゅっと詰まっていたの で、選びました。

 入学後は迷い無く美術部に入部。「自分は美術室の主だ」と言うくらい、放課後は入り浸っていました。

 音楽部の生徒も来て、たわいないおしゃべりや恋愛トーク。部室は憩いの場でもありました。

 印象派による光と大気の表現が大好きで、クロード・モネの画集を眺めたり、油絵で「散歩、日傘をさす女性」の模写をしたりしました。

 2年の終わりから、美大受験に備えて予備校に通い始めました。

 3年生の時、5学年上の先輩で東京芸大に入った伊藤久美子さんが教育実習で母校にいらしたので、受験のアドバイスをもらいました。

 当時は昼と夜のお弁当 を2個持って登校していました。授業が終わると美術室で絵を描き、下校時に世界堂で画材を買い足してさらに予備校で夜9時ごろまで描く。そんな日々でし た。

 受験は残念ながら不合格。朝から夜までひたすらデッサンと油絵を描く1年間の浪人生活を経て日大芸術学部に進みました。

 版画との出合いは大学2年の授業。一手間かけて手描きとは違う雰囲気を出すことに新鮮さを感じ、3年生から専門コースに進みました。

 私の作品は浮世絵版画と同じ手法で、木の板を彫刻刀で削って版木を作ります。1作品に4〜10版の版木を使用しています。

 本来なら絵師、彫り師、刷り師 の3人でやる作業を1人でやるのでとても根気と集中力が要ります。

 制作過程では作図に数学の知識が必要だったり、時代考証で歴史を調べたりするなど、高校 の授業で教わったことが役に立っています。

 大学卒業後、都内の画廊で開催されたアート系の講座を受講したことが縁となって、日本初の若手女性アーティストのユニット「イレブンガールズ・アートコ レクション」の初代メンバーになりました。

 そして、企画書を鉄道趣味誌「鉄道ジャーナル」の編集部へ持ち込んで採用され、2012年から

「版画で綴(つ づ)る 我が街 小田急線七十駅」というタイトルで木版画とエッセーの連載を始めることができました。

 小田急シリーズが完結したら、歌川広重の「東海道五十三次」にならって作品集をまとめたいと思います。

 個展やグループ展にも積極的に参加したい。

 引っ込み思案だった自分に居場所と自信をくれたアートの分野で、今後も活動を続けていきたいと思います。

つながり、文化系でも 卒業生が指導や相談

 校舎7階の音楽室。音楽部員26人が、NHK全国学校音楽コンクールの合唱の課題曲「次元」を練習していた。「ちゃんとディミヌエンド(だんだん弱く) して」「最後まで息が抜けないように」。指導する顧問の小峰和則主幹教諭(56)からの矢継ぎ早の指示に、部員は瞬時に反応する。表情は皆、真剣そのもの だ。

 新宿高には百瀬さんが所属した美術部の他、音楽部など14の文化系部活があり、生徒たちは日々練習に励んでいる。中でも音楽部は創部60年を超え、過去 には坂本龍一さんも所属した伝統ある部だ。部長の2年、宮地華瑛(はなえ)さん(17)は、中学の合唱部の先輩が新宿高に進学したため同校を選んだ。合唱 の魅力を「歌は一人でもできるけれど、みんなで声を合わせて達成した時の喜びは大きい」と話す。

 小峰主幹教諭によると、昨年は同校OBで作曲家の池辺晋一郎さん=1962年度卒=の作品を合唱するコンサートに出演した。同校では芸大などに進んだ卒業生が現役の生徒の指導や相談にも当たるなど、生徒にとって先輩の存在は大きい。

 宮地さんは「活躍される先輩方がいて、うれしいし励みになる」と言う。新宿高のOBと現役生のつながりの強さは、芸術の分野にも共通している。=次回は8月5日に掲載します


卒業生「私の思い出」募集

 都立新宿高校(旧府立六中含む)の卒業生のみなさんから「私の思い出」を募集します。300字程度で学校生活や恩師、友人の思い出、またその後の人生に 与えた影響などをお書きください。卒業年度、氏名、年齢、職業、住所、電話番号、あればメールアドレスを明記のうえ、〒100−8051、毎日新聞地方部 首都圏版「母校」係(住所不要)へ。メールの場合はshuto@mainichi.co.jp.へ。いただいた「思い出」は毎日新聞やニュースサイトで紹 介することがあります。新聞掲載の場合は記念品を差し上げます。


ももせ・はるみ

 日本大学芸術学部美術学科卒業。東京23区の各区のシンボルの花や鳥をモチーフとした木版画連作など、「都市と自然」をテーマとした木版画を数多く制 作。水彩画のようなグラデーションを表現する繊細さが作品の持ち味。新宿高90周年記念誌の表紙の版画も制作した。今年の秋には、アートで街の活性化を目 指す企画「江古田ユニバース2016」への参加も予定している。

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