快楽主義者のことをエピキュリアンと呼ぶが、エピクロスはその元祖
快楽主義という言葉のイメージとは逆に、人生の雑事を「苦」と考え、それからの解放を「快」としたので、その哲学の理想はむしろストア哲学(禁欲主義)に近い
大欲は無欲に通じるという禅の境地や、涅槃(欲望から解放された悟り)を理想とした原始仏教の境地にも似ている
人間(特に男)は若いうちは肉体的欲望の奴隷となりやすいので、老年こそ欲望から解放された、人生の最も充実した時代としている
その規範をひと言で言えば
「隠れて生きよ」
となって、世間の雑事に煩わされることなく、なるべく俗人に出会うことの少ない場所で静かに生きることを勧めている
ここまで来ると、老荘の無為自然の境地にも近くなり、深山幽谷に住む仙人のような生き方になる
エピクロスは非常に多くの著作を書いたが、そのほとんどは隠滅してしまい、現在残っているのはディオゲネス・ラエルティオスが「ギリシア哲学者列伝」に残した引用(つまり本書)だけとなっている
この時代の哲学は、自然哲学(世界観、のちの自然科学)と人生哲学(人生観、いかに生きるべきか)から成っているが、自然哲学は古代原子論(アトム)による説明で、現代人には少々退屈
人生哲学は、のちの哲学が非常に難解になったのに比べると単純明快で、現代人にも親しみやすい
本書には3つの手紙が含まれているが、最初の2つは主に自然哲学なので、ここで退屈して読むのをやめてしまうともったいない
3つ目の手紙(メノイケウス宛の手紙)から読むのがいいと思う
(^_^;)