全国の住職向けに発行されている「月刊住職」(興山舎)がインターネット上で話題だ。
創刊41周年を迎えた同誌は、お坊さん業界唯一の専門雑誌。
「お寺の盆踊りを盛んにさせる法」や「月収10万円以下の極貧寺院」などの業界事情から、寺院の関与が疑われる開運商法、僧侶の不祥事などタブーにも果敢 に切り込む姿勢には、ネット上からも「攻めすぎ」との賛辞が寄せられている。
「全住職の約4分の1」という圧倒的な購読者数の背景には、緻密な取材と「問 題点から学ぶ」という骨太のジャーナリズム精神があった。
業界ウラ話は面白いね (^_^;)
見出しに「じわじわくる」
《開運詐欺に複数の伝統仏教寺院や住職が加担しているのは本当か!?》
「衝撃のスクープ!」という見出しで月刊住職8月号を飾ったのは、開運商法をめぐる特集だ。記事によると、ある開運商法グループが先祖供養料名目などでカ ネを振り込ませていたとされ、被害弁護団や関係者などへの取材で事例を紹介。関与を噂されているという寺院関係者への取材内容とともに掲載している。
7月号では《慚愧(ざんき)に堪えない! 僧侶の女性関連凶悪事件続発の事実と宗派対応力》と題して、今年6月に愛媛県警が僧侶を逮捕した女性殺害事件を 取り上げている。過去の住職や僧侶によるDV(ドメスティックバイオレンス)、ストーカー事件の概要を一覧表にして掲載。各宗派の対応も取材した12ペー ジに及ぶ力作だ。
「檀家(だんか)の死を予見できるか」「怪談の激変」「尼僧バー」-。月刊住職をめぐってはこれまでも、新聞広告など が 掲載されると、思わず目を留める見出しの数々と、不祥事も徹底的に検証する姿勢に、ツイッター上で「じわじわくる」「気になる。超読みたい」「今月も月刊 住職とばしてる」などと話題を呼んでいた。
編集長もお坊さん
「寺院住職実務情報誌」をうたう同誌は、編集長も現役の住職だ。矢沢澄道(きよみち)さん(66)が「寺院向けの雑誌を作ってみたい」と出版社に提案した のがきっかけで、昭和49年7月に創刊。その3カ月後に親の後を継いで住職となった矢沢さんは、現在まで二足のわらじをはき続けている。
横浜市にある安楽寺の住職をしていた父は、まだ矢沢さんが幼いころに亡くなり、その後、母が住職を務めていた。「成長したら寺を継ぐ」という周囲の無言の 期待の中で育ったが、大学を卒業し、高野山で1年間の修行を終えた後に就職したのはデパート業界誌の出版社。一方で、「本格的に住職をやらなきゃいけな い」という気持ちもあった。約1年後、仏教系の本の出版を検討していた会社へ移った。
ここで月刊住職が誕生したが、創刊号の編集スタッフは矢沢さんだけ。雑誌名も、取り扱うテーマも、全て自分で考えた。
同誌が生まれた原点には、住職の仕事をめぐる素朴な疑問があった。「どういうものが住職の仕事か分からず、各地の寺院を訪ねてみると、一つとして同じお寺 はないんです」と矢沢さんは振り返る。花が好きな住職の寺は境内に植物があふれ、狭いけれど訪問者の絶えない寺もあれば、敷地が広くても時々しか人のいな い寺もあった。
「住職は同じ格好をして同じお経を読むが、考え方が全然違うし、お布施の仕組みも違う。こんなに住職にバラエティーがあることを知り、面白いと思った」
一方で「失礼にあたるので、お寺同士でも運営方法や檀家さんのことについては聞かないから、お互いに知らない」のだという。各寺の情報を共有することを、雑誌の目的に据えた。
「嫁は分かってない」「妻に“最低”と…」 にじむ人間模様
途中、出版社や雑誌名の変更を経ながら、現在も、「約6万人いる全国の住職の4人に1人に読まれている」(矢沢さん)情報誌として、存在感を示し続けている。
全国紙やインターネット、読者からの情報提供などでテーマを集めるほか、定期的に図書館に通って地方紙もチェック。スタッフは他に4人いるが、矢沢さんが 全ての記事に目を通し、取材のやり直しを指示することもあるという。校了直前は、矢沢さんも安楽寺で3日間は徹夜作業だ。
「現代のお寺は税務問題、法律問題と無縁ではいられない」と、寺院をめぐる裁判やトラブルなども積極的に取り上げるほか、同誌で紹介される寺院の人間模様も奥深い。
《嫁はお寺のことがまったく分かっていないのです。…(中略)…ひどいときは本堂でフリーマーケットまで開く始末です》
5月号で取り上げられたのは、住職の妻と母の嫁姑関係の例。別の事案では、《妻はなにかにつけて“住職”としては何も言うつもりはないが、父親、夫としては“最低の人”と言うのです》と、夫婦関係の葛藤を示す言葉もあった。
弁護士から内容証明も 「書いてあるのは本当のこと」
「法話のタネ本」の付録や、定期購読者を対象に「無料・秘密厳守」で法律や税金に関する質問を受け付ける「通信相談サービス」など、実務に役立つ情報・サービスも同誌の「売り」の一つだ。
「自分も住職であり、読者の一人だから、住職にとって何が問題か分かるんです」と矢沢さん。僧侶の不祥事やトラブルも「スキャンダルとして取り上げているのではなく、自分たちの問題という視点は大切にしたい」と話す。その上で、こう続けた。
「恥ずかしい話も事実と認めることで、そこから学ぶことがある。原因を究明しないと、抜本的な解決にはならない」
もちろん、タブーに切り込めば、反発も生じる。記事をめぐり、関係者の弁護士などから内容証明が届くこともあるというが、矢沢さんはひるまない。「載せる のをやめようとは思わない。だって、書いてあるのは本当のことですから」。綿密な取材に裏打ちされた自信をのぞかせる。
ネット上の反響 を 受け、出版社には「一般の人でも買えますか」といった問い合わせも寄せられているという。住職以外でも購入可能だが「これはあくまで住職のための雑誌で す」と矢沢さんは冷静だ。ただ、「この雑誌を通じて、宗派の運営向上や現状を見つめ直す機会につながれば」と期待を寄せた。