世界的なジャズ・ピアニスト山下洋輔が、楽しさ満載の猫エッセー『猫返し神社』(飛鳥新社)を上梓した。
ひたすら3匹の猫ちゃん、ピロちゃん、リーちゃん、アーちゃんについて書き綴っている。
「本を書くきっかけは日高敏隆先生の『ネコはどうしてわがままか』という本の解説を書かせていただいたこと。最後のほうがウチの猫自慢になってしまってね。それを目にした編集者から猫本のお誘いがきたんです」
今も月にライブを4、5本こなしているから、書き上げる時間がない。
そこで、すすめられたブログ連載「山下洋輔の猫ラシドレミファ♪」が、2009年11月から約4年間続き、1冊にまとめた。
「写真の手間が大変だったけど楽しく書けた。実は僕にしかできないことが載ってます。猫にピアノを弾かせちゃった。若い2匹は高音、晩年のアーちゃんは低音に動き重厚な音を出した。それをコンピューターで起こした楽譜が載ってます」
ニャカニャカの名作らしいが巨匠なら弾ける?
「それが難しい現代音楽で、僕には弾けないんだ。まっ、種明かしをすると、2匹は右向きに置いたから高音に、アーちゃんは左向きに置いたから低音に動いたんだね」
72歳を過ぎてこのオチャメっぷりはさすが“フリー”。
山下洋輔トリオのデビューは夕刊フジ創刊と同じ1969年。以来、ジャズ界を牽引してきたが、これほど柔軟な発想の持ち主はいない。
「いや、最初はまともなジャズ。それが病気で1年半、ピアノが弾けなくなって。で、復帰したとき、まともな音は自分の情熱についてこなかった。だから周り と違うことをしたくて、鍵盤にゲンコツやヒジを“エイッ”て。ドラムの森山威男もサックスの中村誠一も『何かに似ちゃいけない』共通意識はあった」
処女作「DANCING古事記」から、誰にもできないことをやった。学園紛争に揺れる早稲田大のバリケード内、全共闘が大隈講堂をブチ破り運んだピアノを弾いた。
「アングラ・アーティストを特集していた田原総一朗さんが僕のところに来てね。『どんなとこで弾きたい?』ってしつこくて、ピアノを弾きながら死ねればい い…なんて言ったら、バリケードの中に放り込まれた。田原さんの狙いは火炎ビンやゲバ棒だったんだろうけど、反対派までこっそり聞き込んでいて。音楽で和 平が成り立ってた」
その後は世界を股にかけ活躍。慕う若者も多く巨匠も育成に力を注ぐ。
「今年1月には、ニューヨーク在住のドラマーの高橋信之介、天才少女といわれたサックスの寺久保エレナ、僕のピアノ・コンチェルトをオーケストレーションした挾間(はざま)美帆、僕を常につけ狙ってるスガダイローらと共演した。大丈夫、ジャズ界は若者も元気ですよ」
育成といえば…素人時代に見い出した、あの人が長年の放浪から帰ってくる。「笑っていいとも!」(フジテレビ系)が3月いっぱいで終了するタモリだ。
「72年に福岡のホテルで騒いでたら、タモリが突然入ってきた。あまりにも面白かったんで、東京で赤塚不二夫さんや筒井康隆さんに言いふらしていたら、連 れて来いって。でもテレビで流せるギャグじゃない。だから『笑っていいとも!』にはビックリ。僕たちにはわからない別の才能があった」
神出鬼没、どこにでも溶け込むタモリは猫似?
「そう、あれはネコ体質だ。よその家で見かけた猫がウチのに似ていると思っていたら、実際にそうだったみたいな。その家では違う名前で呼ばれていて、縁側でひなたぼっこしているんだ」
その可愛い猫が戻ってきたら。
「タモリには誰にもできないことがある。“その場ブルース”って即興でブルースを歌わせるんだけど、有名な歌手もできなかった。それをハナモゲラ語(タモリのデタラメ外国語芸)も混ぜてやるんだからすごい。“その場”の機会が増えるかな」
そういえば、フリー・ジャズも勝手気ままな猫に似ているような…。
「猫がじゃれ合う感覚は正しいですね。フリー・ジャズはもともとの曲がなくて、その場でじゃれ合うのが基本だから。平岡正明(評論家)も、僕のことを猫奏法と分析したことがありますよ」
結局、巨匠こそ自由奔放な猫族か。
■やました・ようすけ ジャズ・ピアニスト。1942年2月26日、東京都生まれ。72歳。近著『猫返し神社』に登場するアーちゃんは逝ってしまったが、甘え上手な主人猫ピロちゃん(牝11歳)、図に乗るリーちゃん(牡10歳)と快適な猫&ジャズ人生をおくる。
最新アルバムはニューヨーク・トリオの「グランディオーソ」。ライブは4月5日のソロ・ピアノ・コンサート(東京・晴海の第一生命ホール)、7月17日のスペシャル・ビッグバンド・コンサート(渋谷・オーチャードホール)などが控えている。
ネコ好きに 悪い人はいない!
たぶん (^_^;)