位置チェックイン

sakihe0201TwitterやFacebookでの「位置チェックイン」が盛んだ。「チェックイン」というと、ホテルへのチェックインを想起する人が多いと思うが、ここでのチェックインには違う意味がある。

チェックインとは、自分が今どこにいるのかを、TwitterやFacebookの友人に知らせる(共有する)機能や行為である。

左の写真は、 Facebookアプリケーションで私が会社にチェックインしたときの画面だ。Facebookのユーザーであれば、誰しも一度はこのような投稿を目にし たことがあるだろう。

TwitterやFacebookをやっていても「位置チェックインはしない」という人からすると、「自分が今どこにいるのかを他人に伝えて、何が面白いのか」と怪訝に思うかもしれない。

しかし、実際にソーシャルメディア(Twitter、Facebook、mixiなど)のユーザーの約30%が日常的に位置チェックインを使って いると回答している(※)。

かくいう私も、ゴルフ場、レストラン、空港などでよくチェックインしている派だ。

このユーザー心理を理解すると、ビジネスにも 大いに役に立つ(詳細は後述)。

(※)出所:『ソーシャルメディア白書2012』(トライバルメディアハウス、クロス・マーケティング)

 

位置チェックインしたくなる深層心理

広義の位置チェックインには、FacebookチェックインやFoursquare(フォースクウェア)などの専用アプリを使わずとも、「朝マックなう」「スタバなう」など、言葉で「今、いる場所」を投稿する行為も含まれる。

試しに、過去1年間における「マックなう(+マクドなう)」のツイート数の推移を見てみよう。安定して1日に1500~3000件の「チェックイ ンツイート」が見つかる。この数値は、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)における「USJなう/ユニバなう」よりも多く、日本一の乗降客 数を誇る新宿駅とその周辺における「新宿なう」の約3倍に達する。

 過去1年間の日別ツイート数:マックなう/マクドなう

  調査期間は2012年6月1日~2013年5月31日、口コミ分析ツール「ブームリサーチ」のデータを基に1日単位で集計した。ツイート数はサンプリングデータからの推測値。以下のグラフも同じ

では次に、人気の高い「スタバなう」についても見てみよう。こちらも平日を中心に相当な量のツイートが確認できた。では、スタバ(スターバックスコーヒー)と同じ業態のドトールコーヒーで同様の検索をしてみたらどうだろう。

 

過去1年間の日別ツイート数:スタバなう、ドトールなう

結果は、驚くべきものだった。「ドトールなう」のツイート数は、「スタバなう」の数分の1しか発生していないのだ。スターバックスコーヒーが約950店舗、ドトールコーヒーが約1100店舗と、ドトールの方が多いにも関わらず、である。

同じコーヒーを飲んでいるのに、そしてドトールの方が店舗数が多いのに、「スタバなう」は「ドトールなう」よりも数倍もチェックインツイートが多い。この不可思議な現象から、なぜ私たちが位置情報を友達と共有するのか、ユーザーの深層心理が見えてくる。

チェックインランキング

  出所:ユーザーローカルとFacenaviが提供するFacebookチェックインランキングから、チェックイン場所の抜け漏れや重複を調整し、筆者が作成した

ランキングを見れば一目瞭然だが、チェックイン場所のトップ20は、ほとんどが交通機関(駅や空港)、テーマパークや観光スポット、カンファレンスやコンサートなどが開かれる施設である。

これらの場所にチェックインするユーザーの心理は、「今、自分がいる場所を友達に知ってもらい、『いいね!』やコメントをもらいたい」というものだ。つまり、自分が誰かとつながっている社会的欲求を満たしたいのだといえる。

 

共感を得て羨ましがられたい、自己承認欲求

一方、東京ディズニーランドや東京ディズニーシー、東京スカイツリーや横浜中華街などでのチェックインは、少し文脈が異なる。これら非日常的な場 所でのチェックインには、単に友人との「つながり」を感じたいだけでなく、「いいな!」「俺も(私も)行きたい!」といった共感や羨ましいという反応を得 ることによって自己承認欲求を満たしたい、という心理が透けて見える。

かくいう私も、たびたび週末のゴルフコースでチェックインをする。「今日はゴルフだよ!(楽しそうでしょ)」「ハーフの休憩に昼間から生ビール飲 んでる!(羨ましいでしょ)」というリア充アピールをすることによって、承認欲求を満たそうとしている(冷静に考察すると我ながら恥ずかしいが・・・)。

これらの視点を踏まえて、もう一度Facebookチェックインランキングを見直すと、東京駅、京都駅、大阪駅、博多駅などでのチェックインに は、もう1つの文脈が見えてくる。つまり、地元の人間による東京駅でのチェックインは、例えば「これから出張に行くよ」と誰かに知ってもらいたい社会的欲 求を満たすためのものだが、東京在住者ではない(出張や観光で来ている)ユーザーが東京駅でするチェックインは、「東京に着いた!これから打ち合わせ!」 (出張先で仕事を頑張るぞアピール)や、「東京に遊びにきた!」(非日常アピールや友人への自慢)という自己承認欲求を高める心理が強くなる。京都駅での チェックインはその最たるものだろう。

 

様々なモノやコトにチェックインする時代、そこに商機あり

ソーシャルメディアやスマートフォンによって友人と常時接続している現在において、位置情報は「今ここにいるよ」という単なる緯度・経度情報では なく、「私がいかなる人間か」「どういう価値観やライフスタイルを持つ人間か」といった自己を投影するツールになっている。これが「ドトールなう」より 「スタバなう」が多い意味なのである。

今後、チェックインは位置だけでなく、モノやコンテンツにチェックインする時代がやってくるだろう。例えば、愛車にチェックインすることで共通の 関心や嗜好性を持ったユーザーとつながったり、本やテレビ番組にチェックインすることで共通の興味・関心を持ったユーザーとコミュニケーションができたり するようになる。

日本テレビは、他社に先駆けて番組チェックインのスマートフォンアプリ「wiz tv」を仕掛けた。他局の番組も含め、「いま現在」同じ番組を見ている視聴者が番組にチェックインし、Twitterのツイートを通して一緒に盛り上が り、”パブリックビューイング”を楽しめる環境を作っている。テレビ局側の思惑としては、番組の視聴をより魅力的な体験にしたいということに加え、番組を ビデオ録画でなくリアルタイムに楽しんでもらうことで、コマーシャルを早送りせずに見てもらう狙いもある。

 

「撮った写真を共有する」から「共有するために撮る」時代へ

今日もTwitterのタイムラインやFacebookのニュースフィードには、友人の「今日のランチは○○のラーメン!」「○○に来た!」とい うチェックインの投稿で溢れている。そして、ソーシャルメディアを日常的に利用するユーザーは、毎日の生活の中で常に「ネタ」を探している。会社への通勤 中に綺麗な花が咲いていれば、すかさず写真を撮り「おはようございます。駅までの道にとてもきれいな花が咲いていました。いよいよ本格的な夏到来です ね!」と投稿する。

ここでまたユーザーの心理を考えてみたい。これらの人々は「撮った写真を友人と共有しよう」としているのだろうか。

いや、違うだろう。ユーザーは、TwitterやFacebookなどで「友人と共有するために写真を撮っている」のだ。チェックインと同様に、 写真も「記録するために撮るもの」から、誰かとつながり、「すごいね」「よかったね」と言ってもらうための人間関係構築ツールになっているのである。

これは大きなビジネスチャンスだ。今、そこで自社の商品やサービスに接触しているユーザーが、ソーシャルメディア上の友人(平均50~100人) に、「今、いる場所」や「今、していること」を伝えてくれるのである。広告と違って、リアルな言葉や感情と共に共有される。友人の興味を喚起するには、こ れ以上ない口コミ効果を持つ。

「ポッキー&プリッツの日」を盛り上げるために設置された販促物

しかし、当たり前のことではあるが、チェックインや投稿を強制的に促すことはできない。

であれば、ユーザーが思わず写真を撮りたくなる(社会的欲求や自己承認欲求を刺激する)「被写体」を用意してしまえばいい。右の写真は、毎年11 月11日の「ポッキー&プリッツの日」を盛り上げるため、2012年の当日、江崎グリコが東京タワーに設置していた販促物だ。多くの家族連れやカップルが 中に入って写真を撮り、スマートフォンで友人と共有している姿がうかがえた(プライバシーの観点から、恥ずかしいが自身の写真を紹介する)。

お客様が写真を撮りたくなる(撮りやすくする)ような施策は山ほどある。

  • 撮影スポットにTwitterやFacebookのロゴ看板を立てて「Best Spot」と掲げ、チェックインをするのに絶好の場所であることを気付いてもらう
  • ソーシャル文脈の被写体を用意する(思わず撮ってしまいたくなるようなもの/「いいね!」が多く付きそうなもの)
  • 「写真をお撮りしましょうか?」と積極的に声を掛けるスタッフを用意する。デジカメで撮ったら、「スマートフォンでもお撮りしましょうか?」と促す

これらの観点から、再度自身のビジネスを見つめ直してほしい。きっと、どこかに「お客様の友人」に情報が伝わる仕掛けのチャンスが眠っているはずだ。

あらゆるものが「自己を投影するツール」や「友人とコミュニケーションをとる媒介」になっていく社会――。何を言っているのかサッパリ分からない という読者のみなさん、ぜひTwitterやFacebookで実際にチェックインをしてみて、現代の消費者が持つインサイトの機微を感じてほしい。そこ に、巨大なビジネスチャンスや、自社の商品・サービスを効果的にマーケティングするヒントが眠っているかもしれないからだ。

筆者:トライバルメディアハウス 池田紀行氏

 

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