10月15日運行開始の九州旅客鉄道(JR九州)の豪華寝台列車「ななつ星in九州」。
1泊2日または3泊4日で九州各地を周遊、2人利用で最高110万円(来年3月出発分まで)。
お祭り気分の JR九州
地獄気分の JR北海道 (;´Д`)
約30億円を投じた車両は床や壁に木材をふんだんに用いて高級感を演出。
初列車には最高倍率76倍の抽選で決まった28人が乗車、午後0時47分に博多駅(福岡市)を出発した。
8両編成で、14ある客室は定員30人。
シニア層を中心に国内向け販売は来年6月出発分まで完売した。
同社はアジアの富裕層の利用も見込む。
博多駅の出発式で同社の唐池恒二社長は「九州の観光や日本の鉄道にとって今日が新たな第一歩になる」と述べた。
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どうしたんだ? JR北海道!
道民に限らず、そう案じる旅行者、鉄道ファンは少なくない。吹雪でも遅れることなく走る北の鉄路の「頼もしさ」と、度重な る事故や不祥事が結びつかないのだ。赤字経営や組織の荒廃といった問題の背景には、鉄道を「公共財」として位置づけてこなかった国の交通政策の矛盾もある のではないか。きょう14日、「鉄道の日」に考える。
■旅人いざなう大地
数センチの積雪でも遅れや運休が相次ぐ首都圏の鉄道に比べ、北海道の鉄道は多少の雪ならば時間通りに走る。ドアが凍り付くこともあるが、乗務員は事もな げに頑丈なドアをドンドンとたたき、氷を落として開ける。大雪の日も、ダイヤモンドダストが舞う酷寒の朝も、輸送を担ってきた。
厳しい自然に加え、北海道は広い。十数年前まで、夜間の列車では「○○方面は明朝の接続です。待合室でお待ちください」との放送が日常的に流れていた。長距離客が多い半面、列車本数が少なく、接続の悪い乗り継ぎ客のために駅を終夜開放していたのだ。
そんな雄大さは、多くの旅人をいざなってきた。
「蒸気機関車を撮ろうと吹雪の中でカメラを構えていたら、寒さでフィルムの巻き上げができなくなった」。そう述懐するのは、累計150万部超の売れ行き を記録した「日本鉄道旅行地図帳」シリーズを編集している新潮社の田中比呂之さん(56)。札幌生まれ、横浜育ちの鉄道ファンで、1970年代前半、引退 間近の汽車を「締め切りに追われるような思い」で追いかけ、何度も渡道した。
■資源開発の後で…
「実は、学校で使う地図帳は、紙幅の関係で、北海道だけ縮尺が小さい。だから実際に旅すると、想像以上に広いことを実感できる」。横浜出身の地図研究家・今尾恵介さん(53)は説明する。
本州にいると、そういうスケールを想像しにくい。同じ鉄道とはいえ、都市部の私鉄とJR北海道を同列に論じると誤解を招く。
例えば、2011年にトンネル内で炎上した特急「スーパーおおぞら」の運行区間は札幌-釧路間348キロ、今年7月に火災を起こした「北斗」は同-函館 間318キロ。横浜-名古屋間に匹敵する距離を在来線に頼っているのだ。その上、長い割に沿線人口が少なく、効率が悪い。JR北海道の総延長は2499キ ロで、東海の1982キロや九州の2273キロを上回る。
人跡まれな地域にまで鉄路を延ばしたのは、資源開発のための国策だった。夕張、留萌、釧路などで産出する石炭の輸送、戦前は樺太への足がかり…。田中さんは「既にある街と街を結んだ本州の鉄道とは来歴が異なる」と解説する。
「唯一の近代陸上交通機関として、どんと構えていればお客が乗ってくれる時代」(田中さん)は終わった。1日に数本しかないローカル線でさえ、数十年前は「圧倒的に混んでいた」(今尾さん)のだが…。
■独立採算に限界も
札幌と十勝、釧路とを短絡するJR石勝線に、真新しい高速道路がぴたりと寄り添っている。1995年から2011年にかけて順次開通した道東自動車道だ。JR北海道のドル箱だった特急「スーパーおおぞら」「スーパーとかち」は一転、苦戦を強いられている。
「あれを見るたび、国鉄の教訓が何も生かされていないと感じる」と田中さんは言う。既存のインフラを維持することさえ困難なことが明らかなのに、新たなインフラが建設され続ける実態が、北海道の車窓に垣間見える。限られた客を取り合う過当競争も続く。
今尾さんは「そもそも、北海道のような過疎地で鉄道会社に独立採算を求めるのは無理がある」と指摘する。欧米では、線路などの施設を自治体や公的機関が 保有・管理し、運行を民間会社が請け負う「上下分離」が一般的だ。だが日本では、新幹線や都市部の私鉄が経営的に成功した経緯から今も「上下一体」が原則 で、公共インフラとの認識は薄い。
確かに、北海道の鉄道の大半は、開拓の「大義」を失った。一方で「過疎になっても、人は簡単に引っ越せない」(今尾さん)。赤字路線すなわち廃止、とは言い切れない。北海道の鉄道が揺らいでいる現実は、地方に暮らす困難を浮き彫りにしてもいる。
■体裁だけの民営化
「知らなかった、忘れてしまったで済まされる問題ではない」(太田昭宏国土交通相、9月23日)、「悪質性があり、まったくあり得ない話だ」(菅義偉官房長官、同24日)。一連の問題を受け、厳しい批判が続く。だが、実は国は「当事者」でもある。
JR北海道の株式は、横浜市中区にある独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が100%保有している。一方、JR北は1987年の国鉄民営化時 の「持参金」である経営安定基金(2012年度末7300億円)を毎年、同機構に貸し付け、運用益で本業の赤字を補う。体裁だけ整えられた民営化といえ る。
道内の鉄道はこの30年で1500キロも減り、路線網は大正時代の水準に戻った。国鉄再建法(1980年)で赤字路線の廃止が定められたためだ。「毛細血管」を切り、通勤輸送と都市間の特急という「動脈」を太らせることに生き残りを懸けた。だが近年は、それさえ厳しい。
北海道の人口は札幌に偏っている。その象徴が、JR北が2003年に完成させた札幌駅の「JRタワー」だ。百貨店などが入居する38階建てビルと、周辺の商業施設を合わせた年商は1300億円。これはJR北の運輸収入(12年度776億円)の2倍近い。
「本業」の存在感が薄れる中で、JR北が起死回生の機会と位置づけているのが、15年度末に迫る北海道新幹線の開業だ。東京-新函館(仮称)間が約4時 間で結ばれる。だが、新幹線がもたらすのはばら色の未来だけではない。35年ごろに予定される札幌延伸までに、約300キロの並行在来線がJRから経営分 離されることが決まっている。東北、北陸、九州などの整備新幹線をめぐって1990年に政府、与党が申し合わせた方針を踏襲した。
経営基盤が弱いとされるJR北より、はるかに脆弱(ぜいじゃく)な鉄道会社が、国策で生み出されようとしている。その負担は地元が負う。