伝統に根ざした臨海教室
平成15年度 東京都教育委員会 団体表彰受賞
本校の初代校長は、教育方針として知育・徳育・体育のうち、特に徳育・体育に重きを置き、「質実剛健なる精神の涵養と、健全強壮なる身体の育成を生徒教 育上の二大方針とする」と提唱した。
また、「学校、家庭、同窓、生徒が一体となった大家族主義」という理念を示した。
その具現化のひとつとして、創立間も ない大正11年の7月に、夏季休業に入ると同時に第一回の臨海教室を実施した。
当初は千葉県安房郡西岬村塩見(現在千葉県館山市香谷区)付近の民家に分宿 し、10日間の水泳訓練を実施した。
翌大正12年には、塩見に1600坪の土地を購入し、宿舎を建築し、「塩見朝陽舎(現在の館山寮)」と名付けた。
その 後、昭和33年には一年生が全員参加する学校行事となり、以後、現在まで絶えることなく続いている。
同教室は、戦争による4年の空白はあったものの、87年間の長きに渡り続けられ、生徒の健全育成に多大な効果をあげてきた。
また、その間、一件の事故もなく実施されてきた伝統ある行事である。
新宿高校HPより
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伝統に根ざした臨海教室
東京都立新宿高等学校
1 学校の概要
本校は、大正11年に東京府立第六中学校として創立され、昭和25年に東京都立新宿高校と名称を変え、今年の4月に創立80周年を迎えた。
これまでの間2万4000余名の有能な人材を世に送り出し、多くの同窓生が各界で活躍している。
新宿駅から徒歩5分という東京都の中心に位置していながらも、新宿御苑の四季折々の豊かな自然に囲まれた静寂の中、生徒たちは勉学や部活動などに若い情熱を燃やしている。
創立以来、自主・自律の精神の高揚と人間尊重の精神の育成を目標とし、「全員指導者たれ」を校是とする文武両道の教育を実践してきた。
この伝統を継承し、さらなる発展をめざして平成15年度から「進学重視型」単位制高校として再出発した。
また平成16年度には、全教室に冷暖房を完備した7階建ての校舎が完成し、名実ともに21世紀に新たな歴史を刻もうとしている。
2 教育活動実践の内容
(1)行事の80年に渡る継承
初代校長は、教育方針として知育・徳育・体育のうち、特に徳育・体育に重きを置き、「質実剛健なる精神の涵養と、健全強壮なる身体の育成を生徒教育上の二大方針とする。」と提唱した。
また、「学校、家庭、同窓、生徒が一体となった大家族主義」という理念を示した。
その具現化のひとつとして、創立間もない大正11年の7月に、夏季休業に入ると同時に第一回の臨海教室を実施した。
当初は千葉県安房郡西岬村塩見(現在千葉県館山市香谷区)付近の民家に分宿し、10日間の水泳訓練を実施した。
翌大正12年には、塩見に1600坪の土地を購入し、宿舎を建築し、「塩見朝陽舎」と名付けた。以降、同教室は戦時色が濃くなる昭和17年まで、毎年行われてきた。
戦後、まだ経済状況や食糧事情の悪い昭和22年に50名の希望者によって、同教室が再開された。
その後、生活事情の好転と共に参加者が増加し、昭和33年には一年生が全員参加する学校行事となり、以後、現在まで絶えることなく継続している。
塩見朝陽舎は昭和42年に現在の館山寮に改築された。
本校における同教室は、戦争による4年の空白はあったものの、80年間の長きに渡り続けられ、生徒の健全育成に多大な効果をあげてきた。
また、その間、一件の事故もなく実施されてきた伝統ある行事である。
(2)臨海教室の目標・日程および日課・水泳練習の概要
①目標
生活面については、他とのコミュニケーションが希薄な現在の生徒に、本校の教育目標の一つである人間尊重の精神の育成という観点から、以下の5つの目標を設定している。
・友だちをつくろう:現代的な生活から隔絶された環境に身を置き、起居を共にしながら、会話を
中心とした交流を促進する。
中心とした交流を促進する。
・進んで働こう:集団生活において、いま何が必要か、何をすべきか、ということを自主的に判断
し、行動する姿勢を養う。
し、行動する姿勢を養う。
・公共物を大切にしよう:伝統ある館山寮を新宿高校の財産として認識することを通じて、公共物
に対する姿勢を養う。
に対する姿勢を養う。
・礼儀作法を身につけよう:臨海教室の実施にあたり、さまざまな方々に支えられていることを認
識し、感謝の気持ちを持って行動する。
識し、感謝の気持ちを持って行動する。
・他人に迷惑を掛けないようにしよう:全体の中の一員であるということを認識し、自分本位の行
動を慎む。
動を慎む。
水泳練習については、次の2つを目標としている。
・沖の島までの大遠泳:一人では出来ないことも、集団で協力することによって達成できる、という体験をする。この大遠泳を克服することによって、生徒のなかに自分に対する自信が生まれる。平泳ぎにより、長い距離を力を抜いて泳ぐ。
・4種泳法の検定:本校の水泳指導の目標である、4種泳法の習得の導入とする。
*この2つを通じて、自然の豊かさと厳しさを知り、自然に接する姿勢を養う。
②日程
同教室は、2クラス単位(80~90名)で、3泊4日ずつ、4期に渡り実施されている。
初日の午前7時45分に学校を出発してから、最終日の4日目の午後5時に新宿駅で解散するまでの約81時間は、すべて集団での行動である。
<4日間の日程>
第1日目:入寮式・開講式・水泳練習・レクリエーション
第2日目:水泳練習・小遠泳・ホームルーム
第3日目:大遠泳・水泳練習・演芸大会
第4日目:検定・浜遊び・閉講式・退寮式
第2日目:水泳練習・小遠泳・ホームルーム
第3日目:大遠泳・水泳練習・演芸大会
第4日目:検定・浜遊び・閉講式・退寮式
同教室の日課は、水泳練習の最も効果的な時間配分、HR活動の充実、安全面の配慮などを基本に設定している。
また、起床、朝礼、食事、練習、ホームルーム活動などのすべての行動は、振鈴の合図によって行われる。
このことが、自らが判断し、行動する姿勢を養うことにつながり、生活面さらには水泳指導面の目標を達成することに大きく寄与している。
<1日の日課>
6:00 起床・朝礼・清掃・朝食
9:00
↓ 水泳練習・ボート練習
11:30
12:00
↓ 昼食
1:00
↓ 午睡
2:00
2:30
↓ 水泳練習・ボート練習
水泳練習用具「脚立」準備風景
4:30
↓ 入浴・夕食・レクリエーション・ホームルーム活動
10:00 就寝
9:00
↓ 水泳練習・ボート練習
11:30
12:00
↓ 昼食
1:00
↓ 午睡
2:00
2:30
↓ 水泳練習・ボート練習
水泳練習用具「脚立」準備風景
4:30
↓ 入浴・夕食・レクリエーション・ホームルーム活動
10:00 就寝
③水泳練習の概要
同教室の第一目標は、大遠泳の完泳である。3泊4日の日程の中で、2日目の午後に小遠泳(約30分)、3日目の午前に大遠泳(1~2時間)が実施される。
事前に学校のプールで泳力判定を行い、能力別練習班をつくり、十分な事前指導・訓練を課すとともに、現地においても能力に応じた効果的な練習を行っている。上級班および中級班の指導は水泳部の卒業生が中心となってあたり、下級班の指導は保健体育科の教員があたる。
3日目の午前に実施する大遠泳は、前日の小遠泳の完泳者のみ参加することができる。寮の前の浜をスタートして、約1.5km離れた沖の島までの片道を泳ぐものである。大遠泳の際には、本校所有のボート6艘、船外機付き和船2艘、地元から借り上げた和船1艘を用意し、生徒を取り囲むように配置し、安全確保のため万全を期している。
なお、特筆すべき点として完泳率の高さがある。完泳率とは、遠泳の完泳者数を単純に遠泳の参加者数だけで除するのではなく、臨海教室参加者の総数で除して算出するものである。最近の10年を見ても各期の完泳率は、90%以上の高い値を示している。平成12年度の第3期は「100%完泳」を達成した。これは同教室の80年の歴史においても、5年振り、6回目の快挙であった。この功績は、昨今の生徒の身体能力を鑑みても、注目に値するものである。
(3)体験を通じて育成される生きる力
生徒は1日目を終えた時点では、これまでに体験したことのない厳しい練習に対する戸惑いと、自分の泳力に対する不安の気持ちでいっぱいになる。しかし、2日目を終えるころになると、事前に学校のプールで行ってきた練習が、海でも通用することをはっきりと知り、自信を持てるようになる。その結果、3日目の大遠泳では、ほとんどの生徒が泳ぎきり、大きな感動を自分のものとする。
同教室の指導に当たる保健体育科の教員と水泳部の卒業生は、厳しい体験の後にある達成感をこれまでの長い経験から確信しているため、その指導にはいさかかの躊躇もない。
初めのうちは、生徒は教員や卒業生に依存する姿勢が大きい。しかし日程をこなす中で、徐々に課題を克服し、自律的な自己を見出していく。また、それがさまざまな人々との関わりを通じて成し得たことであるということを理解する。
このような同教室の教育活動は、生きる力の育成そのものであり、その後の学校生活にも極めて大きな影響を与えている。
(4)教職員と卒業生が一丸となった取り組み
同教室は本校を代表する行事であり、学校が一丸となって取り組んでいる。実施においては、一学年の担任が往復の引率、ホームルーム指導、貴重品管理、レクリエーション指導、練習監視、寮内の生活指導を担当している。また、4期に渡る同教室は、事前の準備を含めると17日間に渡る。保健体育科の教員は、この間寮に泊まり込み、寮長、総務、会計、渉外、水泳指導、船管理、食事指導、寮舎管理を担当している。
また、同教室の実施においては、水泳部の卒業生の協力が不可欠である。多くは大学生であり、各期約13名がその補佐に当たり、毎年のべ50名ほどが協力している。なお、大遠泳の日には、それ以外にも多くの卒業生が自発的に各地から駆けつける。高校一年生にとっては、まさに兄や姉といえる存在
であり、さまざな面で彼らを支えることができる存在でもある。
であり、さまざな面で彼らを支えることができる存在でもある。
彼らは生活および水泳の両面にわたり、生徒の指導にあたっている。昼夜を問わず生徒と行動を共にし、緊密な情報交換のもとに、教員とともに同教室の運営を全面的に支えている。同教室が毎年、高い完泳率をあげてきたことや、これまでの長い期間において、1件の事故を起こすことなく運営してこれたのは、まさに本校の教育活動の成果を体現している、かれら水泳部の卒業生の功績でもある。
3 まとめ
臨海教室は入学して初めての宿泊を伴う行事である。テレビや冷房など今となっては当たり前の生活を離れて寝食をともにし、担任、保健体育科の教員、卒業生、そして友との語らいの中、新宿高生としての自覚が生まれる。まさに「臨海教室を通して初めて真の新宿高生になる」といっても過言ではない。
大遠泳を完泳した後の自信に満ちた逞しい生徒たちの表情を見るにつけ、この行事の素晴らしさを実感する。80年間、事故1つ無く行われてきたこの行事を誇りに思うと同時に、「学校、家庭、同窓、生徒が一体となった大家族主義」という初代校長の理念を実現する行事でもあり、新宿高校ある限り続けたいと願っている。
なお、常日頃から掃除や草刈りをはじめとするさまざまな寮の管理やお手伝いを、地元の方々にお願いしている。また、調理担当の方々や地元の方々との交流も、生徒の人間形成にとっては欠くことのできないものとなっている。このように同教室の実施は、さまざまな方々のなみなみならぬご協力に支えられていることを、あらためてここに特記したい。
4 今後の課題
館山寮は、築後36年が経過し、施設、設備の老朽化が激しい。また、女子棟の規模が現在の生徒の在籍状況に対応しておらず、このままではこの意義深い行事の存続が危ぶまれる。環境整備の方策を探ることが急務である。
また、同教室の実施においては、指導にあたる保健体育科の教員の多年にわたる継続的な経験と知識が重要である。今後も計画的な教員の配置が必要である。さらに水泳部の卒業生の協力も不可欠である。生徒の質の変化に伴い、在学期間中の水泳部のさらなる充実も求められる。