【イーストランシング(ミシガン州)】自転車で1時間にどれだけ走ったかを気にする必要はもうない。グロース兄弟が運動量を測るより良い方法を思いついたからだ。1時間でどれだけのビールを醸造したか、だ。
グロース家の兄弟、ショーンさんとアーロンさんは来年、ミシガン州デトロイト 近くのイースタンマーケットに地ビール醸造会社ウィンドミル・ポイント・ブルワリーを開業する。
そこはストロー・ブルワリーがかつて拠点としていた町だ。 だが、兄弟はこの町のビール醸造の歴史に頼ってビールを売り込むのではなく、発電方法に目をつけた。
グロース兄弟はビール造りに必要な電力の一部をまかな うため、トレーニング用のサイクリングマシンを設置するつもりだ。
ここを訪れる客はペダルを踏んでカロリーを消費できるうえに、省エネルギーにも一役買う ことができる。その後のビールでカロリー消費は少し帳消しになるかもしれないが。
科学を教えていた元教師のショーンさんは「娯楽や交通手段という自転車の役割をエネルギー生産の手段へと変えようとしている」と話す。「私たちは7年間、構想を温めてきた。夢を見続けるか、もしくは夢を実現する時がくるものだ」
飲料業界で働いた経験を持つアーロンさんは、素晴らしいアイデアでデトロイトの再生を試みる数多くの起業家の一人だ。ここ数年、かつて自動車産業で栄えた 「モータウン」に新興企業が続々と生まれている。時計や自転車のメーカー、デジタルマッピング企業、それに太陽光発電企業などだ。
だが、グロース兄弟のアイデアはまだ確実なものにはなっていない。息を切らしてペダルをこぐことにそれだけの価値があると、ビール好きの人々に納得してもらう仕事が残されている。
ミシガン州立大学近くの美術館で最近行われたイベントで、グロース兄弟は12ボルトの自動車のバッテリーに連結されたサイクリングマシンを希望者に実際に こいでもらった。自転車をこぐと発電量が表示され、近くに置かれた熱線付きの容器がその電気を利用してインディア・ペイル・エールを造るのに必要な湯を沸 かす仕組みだ。
デトロイトを訪れていたイースタン・オレゴン大学の数学教授スティーブ・タナー氏は「正直言って、やや受け狙いだと思う」と顔から汗を流しながら言った。「でも、楽しい受け狙いだ」と、15分間ペダルをこいだタナー氏は感想をもらした。
タナー氏の「受け狙い」という評価はあながち不当でもない。自転車発電は1970年代のオイルショックの際に注目された。足の力を使った発電は環境保護主 義者やミニマリスト(物を持たない最小限主義者)、世界が滅びるという終末論を信じている人、それに第三世界と呼ばれる国々に単純な機械類を提供している 人たちには魅力的だ。だが、電気を生み出すには、はるかにもっと効率的な方法がある。
この事実はウィンドミル・ポイント・ブルワリーの考えとは合わない。たとえ自転車で出力150ワットの発電ができても、ダイム(10セント=約11円)分の電気量を得るには7時間半を要する。
ウィンドミル・ポイント・ブルワリーで計画している自転車発電のデモンストレーションの様子(デトロイト) Shawn M. Grose
ショーンさんは「ビール造りでやっていけるかどうかは、かなりエネルギー頼みだ」とし、計算によると「大きな利益」を生むまで5年から7年かかると話す。この目標に到達するため、グロース兄弟は太陽光や風力発電も利用する計画だ。
また、自転車愛好家たちのコネクションを最大限に利用したいとも思っている。ビール醸造業者はサイクリストたちとたいていつながりを持っているからだ。サ イクリストが着用するジャージを地ビール醸造業者が販売することはよくある。それに自転車でブルワリーを回るツアーは観光客に人気だ。
「仲間の圧力」が客に自転車をこがせる役割を果たすかもしれない。アーロンさんは「(醸造所では)ペダルを踏まなければいけないわけではない。でも、他の人が自転車をこいでいるのを見てしまえば、自分も飛び入りでやりたくなるだろう」と話す。
「景品」も動機づけになる。自転車をこいだ時間で稼いだポイントは、ギフトショップで物を購入する際に使えるほか、ビールと交換もできる。
ニューヨーク州の地ビールメーカーも同じようなことをしている。ここはペダルマシンを使って大麦麦芽をすりつぶしている。ペンシルベニア州ピッツバーグの ゼロフォッシルは家庭用のペダル式発電機を扱っている。同社の創業者で社長のスティーブン・コバシック氏はマヤ歴にもとづく「世界終末説」が騒がれた 2012年末以降、事業が成功したと話す。コバシック氏は今、自力でエネルギーを確保したい人の需要で事業が成長すると考えている。
ペダル式発電機を製造するペダルパワーの共同創業者アンディー・ウェキン氏は、ブルワリーが自転車で電力を確保するというアイデアは好きだが、米国ではペ ダル式発電に明るい未来はないと指摘する。「地球にはまだ20億人の人が電気のない生活をしている。そうした人にとっては非常に有効だろう」
今週はどれだけ ビール分を補給したか
記録するアプリの必要を感じる 今日このごろ (^_^;)