新年恒例の「歌会始の儀」が16日、皇居・宮殿「松の間」で催された。
令和となって初めてのお題は「望」。
天皇皇后両陛下や皇族方が詠まれた歌のほか、1万5324首の応募作から選ばれた10人の入選者、天皇陛下に招かれた召人(めしうど)らの歌が古式にのっとった節回しで披露された。
代替わり後初めての開催となった今回は、中央に両陛下がお座りになり、秋篠宮ご夫妻ら皇族方が両側に着席した。
皇后さまが歌会始の儀にご出席なされるのは、療養が始まった2003年以来17年ぶり。
19年に退位された上皇ご夫妻は出席されず、歌の披講もなかった。
天皇陛下は、訪問先の学校や施設で出会った子どもたちの声が響き渡る情景を歌にし、将来が明るくあってほしいと願う気持ちを詠まれた。
皇后さまは自然災害の被災地を訪れた際に、各地で若者たちが献身的にボランティア活動を行い、人々に復興の希望と勇気を与えていることを頼もしく感じたとの思いを詠まれた。
両陛下は即位後の2019年6月、東京都内の保育園に足をお運びになり、子どもたちと交流された。
12月には台風19号の被災地を見舞うため、宮城県丸森町と福島県本宮市をご訪問。
被災者や復興に尽力した人々に励ましの言葉を掛けて回られた。
こうした活動を通じ、両陛下ともに未来を担う世代への希望を歌に込められた。
儀式は午前10時半から始まり、入選者、選者、召人、三笠宮家の寛仁親王妃信子さま、秋篠宮妃紀子さま、秋篠宮さま、皇后さま、陛下の順に披露された。
天皇皇后両陛下、皇族方、召人、選者、入選者の歌は次の通り。
天皇陛下
学舎(まなびや)に ひびかふ子らの 弾む声 さやけくあれと ひたすら望む
皇后陛下
災ひより 立ち上がらむと する人に 若きらの力 希望もたらす
秋篠宮さま
祖父宮(おほぢみや)と望みし那須の高処(たかど)より煌めく銀河に心躍らす
秋篠宮妃紀子さま
高台に移れる校舎のきざはしに子らの咲かせし向日葵(ひまはり)望む
秋篠宮家長女眞子さま
望月に月の兎が棲まふかと思ふ心を持ちつぎゆかな
秋篠宮家次女佳子さま
六年間歩きつづけし通学路三笠山(みかさやま)より望みてたどる
常陸宮妃華子さま
ご即位の儀式に望みいにしへの装ひまとひ背(せ)なを正(ただ)せり
三笠宮家寛仁親王妃信子さま
雪襞(ゆきひだ)をさやかに望む富士愛(め)でて平和な御代のはじまりにあふ
三笠宮家彬子さま
言の葉のたゆたふ湖の水際から漕ぎ出ださむと望月の舟
高円宮妃久子さま
サッカーに関はりたれば五輪への出場国をひた待ち望む
高円宮家長女承子さま
初めての展望台にはしやぐ子の父母とつなぎあふ小さな両手
▽召人(敬称略)
栗木京子
観覧車ゆふべの空をめぐりをりこれからかなふ望み灯して
▽選者(敬称略)
篠弘
書き上げし稿(かう)祈りてはファックスす望外なことを近頃はじむ
三枝昂之
丘陵に街に暮らしの歩をとめて人は仰げり望月立てり
永田和宏
なだらかな比叡の肩を照らしつつ昇る幾望(きばう)の、はた既望(きばう)の月
今野寿美
港から汽笛とどけば手にとれる望遠鏡なり蝶々夫人も
内藤明
新しき靴履きて立つ街角にわが望郷の方位をさがす
▽入選者(敬称略)
三重県 森紀子
茶刈機のエンジン音は響(ひび)かひて彼方に望む春の伊勢湾
埼玉県 若山巌
百アールの田圃アートの出来映えを眺望するに櫓を組みぬ
東京都 保立牧子
創薬の望みを託す天空の「きぼう」の軌道に国境はなき
福岡県 石井信男
息を止め望遠鏡で本物の土星の環を見た夏の校庭
福岡県 粟屋融子
ランドセルは海渡りゆくアフガンの子らの希望を抱き留むるため
長崎県 柴山与志朗
望(もち)の日は漁師の父が家にゐて家族四人で夕餉を囲む
山形県 村上秀夫
それぞれに月傾けて子どもらは墨くろぐろと「望」の字を書く
神奈川県 森教子
今よりも人々の文字うつくしき平和を望む戦時下の日記
大阪府 土田真弓
眺望はどうだ晩夏に鳴く蝉を咥へて高く高く飛ぶ鳥
新潟県 篠田朱里
助手席で進路希望を話す時母は静かにラジオを消した